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女性の健康課題と向き合う新技術「フェムテック」――この技術で、世の中はどう変わる? – 渡部 麻衣子先生 SDGs特集記事|リンクウィズSDGs
女性の健康課題と向き合う新技術「フェムテック」――この技術で、世の中はどう変わる?

女性の健康課題と向き合う新技術「フェムテック」――この技術で、世の中はどう変わる?

Link with SDGs編集部

フェムテックという言葉を聞いたことはありますか?
この言葉が生まれたのは2013年から2015年頃と言われています。まだ新しい言葉ですが、「女性(※1)の身体的必要」に応じ、健康や身体的ニーズをサポートする技術がフェムテックです。
この技術は、日本でもこれから市場が伸びるのではないかと言われています。フェムテックはSDGsとも関連しており、今後の動向が注目されています。
今回はそんなフェムテックについて、自治医科大学で客員研究員をされている渡部先生にお話を伺いました。

※1 本記事で語っている「女性」は、「性自認が男性であっても女性の身体的特徴を持つ方(生物学的に女性の方)」も含んでいます。詳しくはこちら

【Profile】渡部 麻衣子(わたなべ まいこ)先生

自治医科大学客員研究員/東京大学客員研究員/UPPLASA(ウプサラ)大学客員研究員 2002年3月国際基督教大学,教養学部社会科学科を卒業後、2005年にウォーウィック大学にて大学院社会学部の博士課程修了。その後、研究室や大学で研究員や講師を務める。著書もいくつかあり、近著に、ポストヒューマン・スタディーズへの招待(堀之内出版、2022年、共著)等。現在、スウェーデンに研究留学中。女性と技術に関する研究を続けている。

サークル

フェムテック、フェムテック製品とは何なのか

――はじめにフェムテックとは何かを教えてください

日本で説明をする時は、「女性の身体的必要に応じるための技術・製品」と伝えています。フェムはフェミニンのフェム、テックはテクノロジーのテックで、そこから想起される言葉です。

 

「女性の身体的必要」で当てはまるものは何かと言うと、例えば月経や更年期などがあります。女性の身体特有のものをテクノロジーで解決しようというのが、始まりです。
こういった製品は昔からあったのですが、フェムテックという言葉は、まだできてから日が浅いものです。ドイツの女性起業家の方が、月経周期管理アプリを開発しました。それを市場化するためにわかりやすい言葉をと考え、その方が「フェムテック」という言葉を使ったのが始まりとされています。

 

 

では、フェムテック関連のものには、どんなものがあるのかというと、先ほどお話した月経関連……生理用品もそこには含まれます。他にもサプリメント、生殖器関連の技術、育児に関連する技術などがあります。生理用品でも新しいものとしては、月経カップというものもあります。

 

――月経カップというのは、どういうものですか?

月経カップは、新しい生理用品の1つです。医療用シリコンで出来ており、カップの形状になっています。それを膣内に挿入し、月経血を溜める仕組みになっています。

 

――タンポンみたいな感じでしょうか?

膣内挿入という意味では使い方はタンポンと似ています。ただ、タンポンは月経血を布に吸収させますが、月経カップは溜めるというところに違いがあります。月経カップは定期的に取り出し、トイレに流して、また挿入し、という風に繰り返し使えるところも、タンポンとは違うところです。

 

――では、生殖器関連の製品とは何のことを指すのでしょうか?

わかりやすく言うと、バイブレーターのことですが、「セルフプレジャーアイテム」と呼ばれたりもするようです。商品によっては、尿もれを防ぐのにも役立つ、膣トレ関連の商品として紹介されることもあります。
また、自分自身のオーガズムがどういうメカニズムで生じるのかを記録し、他者と共有できるスマートバイブレーターもフェムテックとして紹介されています。

 

――他のジャンルでのフェムテック製品もありますか?

搾乳支援機というものがあります。搾乳機を使っての搾乳は大変と感じる方も多いですが、この搾乳支援機は乳房に装着するだけでハンズフリーで簡単に搾乳をすることができます。これも、フェムテック製品の一つとして紹介されています。
他にはサプリメントの紹介や、月経周期管理アプリと連動させて、薬のネット販売、定期購入、専門家への相談などのコミュニケーション技術を使うこともフェムテックの一つとして紹介されることもあります。

 

――フェムテック製品についていろいろと教えていただきましたが、現在フェムテック製品で、特に注目をされているものはありますか?

フェムテックに関わっている方々が、これからは更年期関連の製品を推進していきたい、推進していくべきだと思っている、という話はよく聞きます。
月経周期管理アプリは市場が安定していますが、安定すると今度は離脱が気になってくるところです。離脱をするのは、月経が終わった方たちです。
しかし、そのアプリの中に更年期に関するコンテンツを加えることで、離脱を防ぐことができるのではないかという話が上がっています。

 

日本では経済産業省もフェムテックに注目をしています。理由としては、現在女性の被雇用者が5割を達しようとしている中で、女性の身体的ニーズが生産性に影響を及ぼしているという調査結果が出てきているからです。
損失の一番の原因は月経ですが、その次が更年期です。更年期になる層は、会社でも役職を得ていたり、重要なポジションに立っていたりする人たちです。その方たちが更年期で働きづらくなっているというのは、会社としても損失です。だからこそ、技術を使って支えることに意味があるのではないかと言われています。

 

具体的に更年期をどうやって支えていくのかというと、相談窓口を増やすことです。スマートフォンやネットを使って、自分で簡単に症状を他者と共有したり、必要であれば専門家の助言を受けることができたりできる相談窓口サイトを運営されている会社があります。
その会社は企業に対して、これまであまり知られてこなかった、女性ホルモンの増減による、身体的な症状の変化についてレクチャーをするサービスも展開しています。フェムテックという言葉から、高度な技術を使わなければ、そこに含まれないと思われがちですが、こういったサービスもフェムテックです。

 

これとは別に注目されているのが、吸水ショーツです。経血を吸収することのできるショーツで、新しい生理用品の一つとして注目をされており、大手の会社も参入しています。

 

サークル

フェムテックに関心を持つきっかけとなった製品

――渡部先生がフェムテックに興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか?

私が一番初めにフェムテックという言葉を知ったのは、先ほど紹介した「月経カップ」です。
私は2015年から2017年にかけてアメリカに住んでいました。その時に、スーパーマーケットで月経カップと出会ったのです。初めに見た時は、とても驚きました。調べてみると、日本製のものがまだなかったので、日本にも紹介できないかなと思ったのを覚えています。

 

私は家族の仕事のために、海外に住むことがあります。アメリカにいた頃も、日本の大学をお休みしている時でした。仕事を長期間休んでいると、戻っても自分の場所がまだあるとは限りません。ワークライフバランスが持続的ではないので、だったら自分で仕事をしてみようかなと考えました。

 

実際、他の女性の起業家たちも、私と同じ考えで起業をした方が多くいらっしゃいます。会社で働いていたものの、一時的に働けなくなり、不安になる。その不安を解消するために、起業をすればいいという考え方ですね。

 

私の話に戻りますが、起業をしようかなと思い始めていた頃に出会ったのが月経カップで、その月経カップを調べているうちにフェムテック製品として紹介されているのを知り、フェムテックそのものに関心を持ったのが始まりです。
私以外にも、フェムテックで起業をされている方の多くも、女性の身体的な経験を解決するための技術を他者と共有したいという思いを持っており、そこにも私は共感をしました。
フェムテックの領域自体が、女性の置かれている状況を象徴していると思ったからです。そんな時、「研究プロジェクトとして参加をしませんか?」というお声をかけていただき、現在に至っています。

 

これは余談なのですが、日本製の月経カップが作られていないと知った時に、私は日本でも作れば売れると思い、下町にある中小企業の工場にお話に行きました。相手は社長さんと技術担当の方です。
どちらも中年以上の高齢の男性です。その二人を前に、私は月経カップがどういうもので、どういう仕組みのものなのかを説明しなくてはいけません。
一度は勢いで話をしに行けたのですが、高齢の男性を前に女性の身体の話をすることが、とても辛く続けられないと思い諦めた経緯があります。
しかしこの経験をして、だから「女性の身体的必要」に応じるための技術が、これまで発展してこなかったんだということを理解しました。この経験はとても重要なことだと思っています。

 

サークル

SDGsとフェムテックの関係

――フェムテックはSDGsという視点で見ると、SDGsの目標、課題解決にどのような側面からアプローチできると考えられますか?

女性の身体を持っていることで、働く機会が様々な形で少なくなったり、疎外されたりしていることがあるならば、それを技術的に解決することで、平等に働く機会を得ることができるようになるのではないでしょうか。

 

また資源のリサイクルというところでは、月経カップは繰り返し使えるので、一般的な生理ナプキンのように紙をたくさん使わなくても月経を管理できるようになります。

 

――月経カップは繰り返し使えるのですね

もう何十年も使っていると書かれたブログを読んだことがあります。
ただ、体質的に向き不向きがありますし、慣れ親しんだものを使いたい場合もあります。タンポンと同じで、正しく使う必要があるため、全員が使うべきとは言いませんが、自分の身体に合っていて、使っていて心地よいと思う人が増えれば、今使われているナプキンの消費量を軽減できるのではないかなとは思います。

 

 

ただ、フェムテックには懸念点もあります。

 

フェムテックは、先進国で発展してきた技術です。そのため、経済格差……経済だけではないですが格差を広げてしまう可能性もはらんでいます。フェムテックは公共物ではないため、無料で配布されていません。
店で販売されているので、買える人、買えない人が出てきますし、そもそも製品にアクセスするための情報を持っていない人もいます。

 

経済産業省は被雇用者の女性に対して、技術的な支援をしていくことを目指していますが、一番困っているのは被雇用者ではなく、労働市場に乗れない女性ということを忘れてはいけません。
例えば雇用されればフェムテックの情報を得られ、身体を助けてくれる技術に行きつきますが、労働市場に乗れなければ、製品の情報すら手に入らないとなれば、分断が生じてしまうということです。これはSDGsの理念に基づいて、製品を作る側、使う側、推進する側が気をつけなければいけないのではないかと思っています。

 

――フェムテックの懸念は、情報発信ということになるのでしょうか?

 それもあるとは思いますが、フェムテックを語ることのできる場が、まだまだ限定的というところに問題があると思います。

 

またフェムテックが対象としている「女性の身体的な必要」というのは、社会で共有されるべき知識です。しかし、限られた層にしかフェムテックの技術を提供できないとなると、問題が生じます。
例えば働いていて、パーフェクトに見える女性が見える化されます。しかし、パーフェクトな女性は、裏側では様々な技術を駆使してそこにたどり着いているのですが、その部分が見えていません。
現在でもそういった状況は起きていると思います。こういったパーフェクトな女性が現れると、他の女性が努力をしていないからパーフェクトになれないという風に見られたり、そもそも資源不足によって努力することすらできない層がいることも理解されなくなる可能性もあります。
そして、パーフェクトになれない人たちを、ダメな人間というレッテルを張ってしまう。これはSDGsの理念に反することです。ただ、技術というのは、どうしてもそういった側面があり、人を分断してしまうため、扱いには十分に気を付けた方がいいと思います。

 

――確かに難しい問題ですね。

 フェムテックは、女性のニーズを新しい方法で解決するという発展性のあるポジティブな技術なのですが、懸念点もあります。ただ懸念点があるからと言って、フェムテックを推進するのはやめようというのではなく、そういう可能性もあることを想像しながら、どうやってそれを解決していくのかを、色々な人たちが考えていくことが大事なのだと思います。

 

サークル

「フェムテック」という言葉がもたらすもの

――渡部先生のコメントが紹介されているWeb記事にて「フェムテックは《何が女性の身体なのか》《どういった身体を持つ人が使える技術なのか》ということを定義づけることがあります」と書かれていたのですが、このことについてもう少し詳しくお聞かせください。

これは「フェムテック」という言葉の問題です。フェムという名前が入っているため、女性の技術という風に捉えがちなのですが、その技術が対象にしている月経を経験している人の中には、性自認が女性ではない方もいらっしゃいます。その点が、問題だということです。

 

フェムテックという言葉を作った、ドイツのイダ・ティンさんの月経周期管理アプリにはクルーという名前がついています。このアプリは、WEBサイトも含めてピンク色は使っていませんし、「女性」という言葉も一切出していません。それに対して、日本にある月経周期管理アプリは、淡いピンク色でウサギをマスコットにしたフェミニンを前面に出しています。ここに日本の特性があるように感じます。

 

月経を経験している生物学的女性が、精神的女性とは限らないのに、フェムテックという言葉を使うことで、その技術を使っている人は「女性」だと言ってしまっている。つまり、ある一定の層を排除してしまう言葉になっているところが気をつけなければいけないと思っています。

 

サークル

実際に動いているプロジェクトとは

――フェムテックの法的、倫理的、社会的な課題も研究をされているとのことですが、具体的にはどういった研究なのでしょうか?

実践女子大学の標葉靖子先生が代表のプロジェクトです。フェムテックには、どんな倫理的な課題があるのかを検討しています。
フェムテックという言葉がはらんでいる排他性、一部の人だけを対象にしてしまう状況も、倫理的な課題の一つと指摘できます。そういった倫理的な課題がどれだけあるのかをリストアップしていくのが、プロジェクトの一つの目標です。
また実際にフェムテックがどのように使われていて、どのような理解をされ、認知をされているのかは標葉先生が量的な調査で明らかにしようとなさっています。

 

私自身は、企業にあたっての経験を女性の方たちにインタビュー調査をしています。プロジェクトメンバーの中には、東京大学の科学史を専門にしている隠岐さや香先生がいて、ヨーロッパ系のフェムテックとジェンダーイノベーションが、専門家の間でどのように語られているのかの聞き取りをしています。

 

明治大学の竹﨑先生は、スポーツの領域でフェムテックがどのように使われているのかということを研究されています。スポーツ界ではすでにフェムテックは当たり前のように使われています。そのため、クラブチームで月経周期管理アプリが使われており、そこでの聞き取り調査をしている先生もいます。

 

サークル

これからの未来に期待すること

――最後に渡部先生は、今後フェムテックはどのように発展し、これからの未来を切り拓いていくと思いますか?

フェムテックは、女性の置かれている状況をかなり包括的に表しているというところが興味深いところです。
フェムテックの技術を通して、女性の置かれている状況が、おのずと見えるようになっていく可能性を秘めているからです。
例えば、月経、更年期、搾乳は大変なことなど、これまであまり表沙汰にしてこなかった時代が長くありました。それが「女性の身体的必要」に応じるための技術を通して、語られるようになり、社会が見えるようになってきたことが、フェムテックが社会にもたらした一番の利点なのではないかと思います。

 

そうした中で願うのは、見える化してきたことが、フェムテックでくくられる技術によってのみ解決されるのではなく、技術によって見える化された「女性の身体的な必要」について、社会でどうやって支援していくのかを考えていくようになってほしいと思います。
「身体的な必要」があるときに、働き方はこれでいいのか、良くない場合はどうすればいいのか、どういった働き方がふさわしいのか、どうやって社会として可能にしていくことができるのか、どういう政策的な対応ができるのかというところまで、議論ができるようになるのが理想です。

―― 書籍/活動紹介 ――

  • ポストヒューマン・スタディーズへの招待

    ポストヒューマン・スタディーズへの招待

    竹﨑一真 著/編集, 山本敦久 著/編集, その他

  • 現代思想 2023年5月号 特集=フェムテックを考える ――性・身体・技術の現在

    現代思想 2023年5月号 特集=フェムテックを考える ――性・身体・技術の現在

    菊地夏野 著, 標葉靖子 著, 筒井晴香 著, その他

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