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ファストファッションの問題を解決するために、私たちができること – 長田 華子先生 SDGs特集記事|リンクウィズSDGs
ファストファッションの問題を解決するために、私たちができること

ファストファッションの問題を解決するために、私たちができること

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ファストファッションの問題は、どうすれば解決できるのでしょうか?
国や自治体、アパレルメーカーや販売店、消費者――それぞれの立場で「解決のために何ができるのか」を長田先生にお伺いしました。

【Profile】長田 華子(ながたはなこ)先生

茨城大学人文社会科学部 法律経済学科 准教授
東京女子大学文理学部卒業。お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科博士後期課程修了。2014年から現職。主たる研究テーマとして、バングラデシュやインドに加えて日本(東北地方)の縫製産業とジェンダーがある。主な著書は、『990円のジーンズがつくられるのはなぜ?―ファストファッションの工場で起こっていること』(合同出版、2016年)。

サークル

国や自治体ができること

――ファストファッションの問題を解決するために、国や自治体は何ができますか?

ここ数年で、ヨーロッパで人権デュー・ディリジェンスを法制化する動きが出てきています。人権デュー・ディリジェンスとは、企業が自社の企業活動の中で、強制労働や児童労働などの人権リスクがないかどうか、ある場合には特定し、それらに対処するための一連の行動を指します。国際機関であるOECD(経済協力開発機構)が定めたものですが、近年、欧州ではこれを義務化する動きが相次いでいます。

 

例えば、ドイツで2023年1月1日から施行されている、「サプライチェーン監視義務法」はその1つです。ドイツに本社や子会社があり、従業員の数が3000人以上の企業の場合は、直接的サプライヤーが強制労働や児童労働などの人権侵害や環境汚染を引き起こしていないかを監視して、報告をする義務があるというものです(詳細は、朝日新聞SDGsアクション「欧州で強まる人権デュー・ディリジェンス熊谷徹のヨーロッパSDGリポート【6】2023年6月21日」を参照)。
2024年以降は、企業規模が1000人以上を対象とするとされており、該当する工場はさらに増えます。報告義務に加えて、違反した場合には、多額の罰金も科すという厳しい対応をとっています。

 

ドイツよりもさらに厳しい対応をしているのが欧州議会(EU)です。2023年6月1日に「企業持続可能デュー・ディリジェンス法案」を可決しました(詳細は、同上のリポートを参照)。ドイツよりも、企業の対象範囲が広く、中小企業も含むこと、人権侵害の定義が広いことも特徴です。

 

こうした欧州の動きに対して、日本政府も検討を開始したという報道が出ています。今後、日本で、どのように進むのか、私は注目しています。

 

サークル

アパレルメーカーができること

――アパレルメーカーや販売店では、解決のためにどんなことができますか?

2023年11月8日の日経新聞に、ファーストリテイリング(ユニクロ、ジーユー等)が商品の原料調達から納品までのバリューチェーンを管理し、人権リスクを排除する仕組みを導入するという記事が掲載されておりました。

 

日本の大手アパレル企業では、初めての取り組みとして注目されています。ファーストリテイリングのようなグローバル企業は、欧州でも服を販売しているため、やはり、ドイツや欧州議会での取り組みを踏まえた対応が求められるのでしょう。このファーストリテイリングの動きが、どのくらい日本の企業に波及するかが、重要だと思います。

 

サプライチェーンがグローバルに展開しているからこそ、一企業が下請け先や、原材料の調達まで含めて、全ての工程を特定することは非常に難しいことです。
しかし、例えば、私たちが身にまとう服を作っている途上国の労働者が、過酷な状況下で働いているのであれば、それは私たちが服を作る過程での犠牲を途上国に押し付けていることになるでしょう。
また、先ほど指摘したように、ファッション業界は、温室効果ガスの排出量や、水資源の使用など、自然環境にも犠牲を強いているのです。こうした環境への負荷は、巡り巡って、私たちの生活を脅かすものでもあります。そうした点でも、ファッションに関わる全ての業者が、対応しなければならない課題だと思います。

 

サークル

私たちができること

――消費者一人ひとりができることは、何でしょうか?

ドイツや欧州の話をしましたが、この背景には消費者の関心が強く影響しているように思います。
つまり、「自分が消費するものが、どんな環境で、誰が作っているのか」を知りたいという、消費者の感情です。こうした動きは2013年にバングラデシュで起こったラナ・プラザの崩落事故や2018年に英高級ブランドのバーバリーが売れ残り商品を焼却処分していることなどが報じられたことに伴い、消費者のファッション業界に対する視線が厳しくなったことからくるのだと思います。消費者の感情や要求は、国や企業を動かすことができるのだということです。

 

残念ながら、こうした動きは、日本の消費者の中では、それほど大きくなく、関心は低いのが現状です。

 

一方で、「なぜ私たちが、安価な服を買っているのか」、その背景にも目を向ける必要があると私は思います。講演会や講義の場で、バングラデシュの縫製産業の話をすると、必ず、「先生が言いたいことはよくわかるが、安価な服しか購入できないんだ」という声が返ってきます。
確かに、そうですよね。それは、私たち自身も、貧しくなっているからです。賃金は上がらず、物価高の状況が続き、生活は苦しくなるばかりです。私たち人間は、服を着ないわけにはいかないわけで、そうすると、おのずと安価な服を購入するという選択を取らざるをえなくなります。

 

しかし、どうでしょう。私たちも、「なぜ、賃金は上がらないのか」、「なぜ、生活は厳しいままなのか」を考えると、バングラデシュの縫製工場で働いている人々と境遇は似通っていると気が付くでしょう。決して、バングラデシュだけの問題ではないのです。
また、バングラデシュという遠い国の問題としか考えていなかったことが、自分自身の問題として重なるでしょう。

 

労働環境を良くするためには何をすべきなのか、私たちの経済状況の問題を解決するにはどうしたら良いのか、という考えに及べば、同じ問題を抱える、バングラデシュの人たちと連帯することもできるかもしれません。

 

――自分ごととして考えられるようになると、見え方が変わってくるのですね。

その通りです。
加えて、ご質問にはなかったのですが、私がファストファッションの問題を解決するために、もう一つ重要に思っていることは、バングラデシュ政府とバングラデシュの労働者自身がどう変わるかということです。

 

先ほど話しましたようにバングラデシュ政府は、外国アパレル企業を誘致するために、労働条件の引き下げや労働者によるデモ活動を厳しく取り締まるなど、自国の労働者に厳しい対応を求めてきました。逆を言えば、政府は、外国の企業に厳しい対応をとらずにきたわけです。
しかし、こうした対応は、ラナ・プラザの事故を見ても分かるように、国民の生命や安全を犠牲にすることにつながります。私は、バングラデシュが持続可能な経済成長や、産業の発展を進めていくためには、目先の利益(例えば、外国企業を誘致すること)を追い求めるのではなく、国民の生命や安全、そして豊かな自然や環境を維持し、再生産することに重きをおくことが大切だと思っています。

 

給料日、縫製工場の外で買い物を楽しむ女性たち(写真提供:長田先生)

 

その1つの方策として、例えば、国民への教育投資や技術支援の提供、ジェンダー平等の施策などを手厚くし、女性の教育、技能向上を進めていくことが挙げられるでしょう。

 

もう一つは、バングラデシュの労働者についてです。やはり、労働者自身も、技能を高め、労働法の基礎的な知識を身に付けるなど、労働者としての権利を学ぶ必要があると思うのです。また企業による理不尽な対応などがあれば、どういう機関に相談し、何をすればよいのか、こうした知識を得ておくこと。従順な労働者であり続けることは、自分自身を苦しめるだけです。
ただし、多くの縫製労働者が自律的にそうした情報を手にできるかというとそうではないと思います。日系企業をはじめ、外資系企業には、労働者に対する技術向上のための訓練機会を付与したり、労働法を学ぶ機会を提供するなど、バングラデシュの縫製産業で働く人々の厚生を高めるよう、様々な協力をしていただきたいと思います。
そうした取り組みは、日本企業にとっても、バングラデシュにとっても、そして縫製産業で働くバングラデシュの労働者にとっても、メリットをもたらすのではないかと思っております。

 

―― 書籍/活動紹介 ――

  • 990円のジーンズがつくられるのはなぜ?―ファストファッションの工場で起こっていること

    990円のジーンズがつくられるのはなぜ?―ファストファッションの工場で起こっていること

    長田華子 著

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