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SDGsは目標の2030年まで折り返し地点に。あらためて「SDGsの本質は何か」が問われる – 白井 信雄先生 SDGs特集記事|リンクウィズSDGs
SDGsは目標の2030年まで折り返し地点に。あらためて「SDGsの本質は何か」が問われる

SDGsは目標の2030年まで折り返し地点に。あらためて「SDGsの本質は何か」が問われる

Link with SDGs編集部

SDGsには目標の期限として「2030年」が設定されています。2015年9月にSDGsが採択されてから8年が経ち、残すところ約7年と折り返し地点を迎えました。
そこで武蔵野大学の白井先生に、現在までの達成度を振り返りながら、これから日本はどのように考えてSDGsに取り組み、何をすべきなのかを伺いました。

【Profile】白井 信雄(しらい のぶお)先生

武蔵野大学工学部 サステナビリティ学科/環境システム学科 教授 学科長
大阪大学工学部環境工学科卒業。大阪大学大学院環境工学専攻修了。博士(工学)。技術士(環境部門)、専門社会調査士。民間シンクタンク勤務、法政大学サステナビリティ研究所教授、山陽学園大学地域マネジメント学部教授を経て、2022年4月より現職。専門は持続可能な地域づくり、環境政策論、サステナビリティ学。

サークル

国連のレポートでは見えてこないもの

――日本ではSDGsの目標4と目標9が、他の目標に比べ非常に高い達成度になっていると思うのですが、それはなぜだと思われますか?

「Sustainable Development Report 2023」(国連)を元にLink with SDGs編集部が作成

 

目標4「質の高い教育をみんなに」という項目は、日本がもともと教育に力を入れていたからです。義務教育を徹底しているという基盤があったから、この結果が出ているのだと思います。SDGsの目標になったから、頑張ったというわけではありません。また、日本は少子高齢化という状況でもあるため、子どもを大事にして教育に力を入れ、投資をするというのは、自然の流れと言えるのではないでしょうか。

 

目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」という項目は、インフラ整備のことを指しています。日本は国営でインフラ整備をされてきた歴史があります。海外では民間の力でインフラを整備する傾向があります。日本でもインフラの民営化や事業採算性を高めるようにしてきました。この結果、地方の鉄道会社の多くが存続の危機にあります。現在は11位という位置にいますが、これからは下がるのではないかと、私は懸念しています。ネガティブなことを言いたいわけではありませんが、市場原理の中でインフラの維持も難しくなってきそうです。

 

目標4も目標9も、SDGsがあるから変わった部分と言うわけではなく、元々国の特性として持っている部分が、SDGsで評価されているだけというのが私の見方です。

 

――では、表には現れてはいませんが、日本が独自に発展させてきた強い分野は何だと思われますか?

やはり地域づくりの分野になるでしょうか。地域の特産品を作ったり、地方創生だったりというのは、ある程度は成功したと言えると思いますが、これは90年代からのものです。

 

地域おこし協力隊も地域づくりを活性化しています。環境未来都市、スマートコミュニティなど、地域でモデルを作り、発展させているのも日本の強みと言い切れない面もありますが、それでも日本の特徴として活かしていくべきことだと思います。

 

現在はSDGs未来都市を、154の地域で行っていて、その中で成功事例を出している地域もあります。こんなにたくさんの地域で、未来を先取りする事業を行っていることを大切にしたいものです。

 

内閣府地方創生推進室「2023年度SDGs未来都市及び自治体SDGsモデル事業の選定について」資料より抜粋

 

ただ、こういった取り組みは、SDGsの目標ごとの取組としては評価をされません。しかし、SDGsの本質は「つなぐ」というところにあり、目標ごとの達成度をばらばらと高めることではないはず。目標ごとの達成度にはこだわりすぎないほうが良いのではないかと考えています。

 

サークル

これからの7年で日本が力を入れるべきSDGsとは

――2023年9月でSDGsの採択から8年が経ち、2030年まで折り返し地点を迎えました。残りの7年間で日本が特にすべきこと、力を入れていかなければならないことは何だと考えられるでしょうか?

私は特に2つのことに関心があります。

 

1つは気候変動。2050年にゼロカーボンにしようという目標です。少し前には、2010年ごろからある程度減らしてきていますので、2020年代はその傾向を維持し、2030年代になってから加速化することで2050年の目標は達成できるという目算でした。

 

しかし、パリ会議で目標が変更になりました。2050年に温室効果ガスを8割削減が目標だったのは、2050年に10割削減、すなわちゼロにしようということになりました。そうすると、2030年からの加速化では間に合わず、2020年代、まさに今、走りださないといけないことになりました。コロナ時代となり、抜本的な先送りにしてきたこともあり、走り出すための準備が現時点で出来ているかと言うと、まだまだのように見えます。

 

全国各地にゼロカーボンを先駆けて達成する「脱炭素先行地域」をつくる動きが進められています。しかし、この先行地域において、地域住民が関わっていく「仕組み」が不十分なことが気になります。地域住民をおいてけぼりにして、脱炭素が実現したとしても、それが本当にローカルSDGsを達成する、持続可能で理想的な地域を実現することになるでしょうか。

 

ゼロカーボンの実現のためには脱化石燃料を図ることになります。そのことはエネルギーを変えるだけでなく、石油由来のプラスチック製造をやめていくことになります。また、森林の整備や活用もゼロカーボンの達成手段となります。森林の整備・活用は生物多様性や災害リスクの軽減にもつながっていきます。モノの大量消費をやめるという脱物質化もまた、気候変動対策として重要です。このように気候変動は様々な環境問題と一体的にあり、環境問題の同時解決を図るうえで、短期的に明確な目標をもっている気候変動対策が重要です。

 

2つめは社会的包摂です。だれ一人取り残さない未来を、本当に実現できるのかということです。他者との共生という言葉を言うのは簡単ですが、本当に弱者の立場に立って物事を考えているのかというところが疑問です。もっと深く掘り下げていく必要があるのではないかと思っています。

 

気候変動のゴールは数値として見ることができますが、社会的包括は数値として見ることが難しいので、ゴールがどこなのかということも考える必要があります。

 

気候変動対策と社会的包摂の掛け算の部分が重要です。気候変動の影響は高齢者や貧困層に深刻であり、気候変動の進行が格差を拡大させるという側面があります。また、ゼロカーボンのための地域外の企業が地域にメガソーラーを設置する場合、地域では得るものが少なく、地域資源の外部からの収奪になってしまいます。気候変動への対策が不平等を拡大させることもあるわけです。

 

ではどうしたらいいか。詳しくは別の機会に説明したいと思いますが、「気候変動対策と社会的包摂」の統合的解決を生み出していく、創意工夫とそれらの根本にある構造の転換が必要だと考えています。

 

――日本以外の国が行っているSDGsの施策で、日本が見習った方がいい国はありますか?

サステナビリティ学科でもスウェーデン視察に行っています。そうした他国から刺激を受けることはとても大切なことだと思います。しかし、日本は劣っていると思い込んで見習うばかりではダメだと思います。自分たちができているということを知るのも必要ではないでしょうか?

 

日本以外の国をあえて言うとしたら、韓国はもっと参考にしたいところです。国土の大きさは違いますが、韓国は政策を実行をする時は一気に行うという傾向があると感じています。日本の場合は、実行をすると言い続けて、なかなか実行しない、中庸で生半可になりがちなところがあります。

 

韓国は日本と同じで欧米追随型の国として発展してきた国として共通することが多くあります。これまで行ってきた施策の良い部分、悪い部分を共有し合い、今後の施策に生かしていくことができるはずだと考えています。

 

サークル

パートナーシップで貢献できるSDGsとは何なのか

――日本のSDGsの認知度についてはどのように捉えられていますか?

2015年にSDGsが作成されてしばらくは、世界に比べて日本のSDGsの認知度が低いと言われてきました。しかし、広告会社等が日本でのSDGsの認知度を一気に上げてきた結果、今は認知度が低いとは思わなくなりました。短期間で認知度を一気に上げたため、日本のSDGsは、勢いづいているのではないかと思います。

 

認知度がある程度高まって来たので、これからは中身をどれだけできるかです。試行錯誤をしている中で、SDGsは批判的な見方もされてきました。「SDGsウオッシュ」という言葉をご存じでしょうか。見せかけだけで、何も変えようとしていないというようなことを揶揄する言葉です。そうやって批判されながらも、SDGsの本質が何なのかを考えていくことが重要だと思います。

 

SDGsの本質は何なのかという問いかけへの回答は、人によって違うようにも感じています。しかし、違うことが悪いわけではなく、違うことを共有し合い、考えをさらに発展させていくことが必要なのではないでしょうか。

 

SDGsのことを考えると、どうしてもモヤモヤした気持ちを抱えることになります。これは「SDGsウオッシュ」ではないかと批判的精神を持つと、モヤモヤするのは当然のことです。だからこそ、このモヤモヤとして気持ちを解消するにはどうしたら良いのかを議論しながら進めていくということが大事なのだと思います。

 

――最後にSDGsの17番目の目標に「パートナーシップで目標を達成しよう」とあるように、パートナーシップで貢献できることは何なのかを、白井先生の視点で語って頂けますでしょうか?

日本の地域の取組を、地域同士で共有していくことがこれからも広がっていければいいなと思います。もっと大きな規模で言うと、国を超えた地域同士のパートナーシップも大切です。アメリカの国としての動きと、アメリカ国内の地域としての動きはまた違うものです。

 

国同士の目標でSDGsを語りがちではありますが、地域同士でつながって共有していくことができれば、さらなる発展が見えてくるはずです。

 

SDGsに関連する、新しい本をこの9月に出したので紹介させてください。

 

SDGs、そしてその先にある持続可能な社会の実現に向けて、大胆な変革、すなわち社会と人の転換が必要だと考えています。このことをテーマして、18名の著者で「地域からのトランジション」をテーマにした本を発刊しました。かわいい表紙の本です。SDGsウオッシュが気になる方、SDGsでもやもやする方におすすめの本です。

 

―― 書籍/活動紹介 ――

  • 持続可能な発展に向けた地域からのトランジション

    持続可能な発展に向けた地域からのトランジション

    白井 信雄・栗島 英明 編著

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SDGsはもちろんのこと、サステナブル・エシカルな視点から記事を制作する編集者・ライターの専門チームです。社会課題から身近にできることまで幅広く取り上げ、分かりやすくお伝えします。

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