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SDGsを行動につなげるには何が必要? 武蔵野大学サステナビリティ学科の白井教授に聞く、地域の課題とこれからの取り組み方 – 白井 信雄先生 SDGs特集記事|リンクウィズSDGs
SDGsを行動につなげるには何が必要? 武蔵野大学サステナビリティ学科の白井教授に聞く、地域の課題とこれからの取り組み方

SDGsを行動につなげるには何が必要? 武蔵野大学サステナビリティ学科の白井教授に聞く、地域の課題とこれからの取り組み方

Link with SDGs編集部

「SDGs」という言葉の認知度は上がってきたものの、実際に「行動」に移している人はまだ多くはないのが現状です。特にSDGsと地域活性化について様々な角度から研究している白井先生に、「行動」につなげるためのヒントをお伺いしました。

【Profile】白井 信雄(しらい のぶお)先生

武蔵野大学工学部 サステナビリティ学科/環境システム学科 教授 学科長
大阪大学工学部環境工学科卒業。大阪大学大学院環境工学専攻修了。博士(工学)。技術士(環境部門)、専門社会調査士。民間シンクタンク勤務、法政大学サステナビリティ研究所教授、山陽学園大学地域マネジメント学部教授を経て、2022年4月より現職。専門は持続可能な地域づくり、環境政策論、サステナビリティ学。

サークル

人々がSDGs(地域にローカライズされた問題)のために行動できていない理由

――SDGsの考え方は浸透してきましたが、人はまだ実際に動こうとはしていません。人が行動するのに足りていないものは何だと思われますか?

「仕組み」がないことだと思います。

 

――「仕組み」とは?

まず、SDGsのゴールを考える際、国際的なゴールをローカライズして、自分たちの身の回りにある地域課題におきかえることが大切です。例えば、少子高齢化や空き家問題、地域産業の衰退、里山の放置や鳥獣被害なども、ローカライズしたSDGsの課題となるわけです。

 

そうだとしても、個人ではどうすることもできない、行政がしなければいけないこと、と捉えてしまい、他人事として考えるために、個人が動こうとはしなくなるという問題が生じます。



また、地域の外から専門家を呼んで、地域の問題の洗い出しをしてもらい「こういう風にすれば地域の課題は解決できるので、こういった行動を取ると良いですよ」と提案されるとします。

 

しかし地域の人たちは外部の専門家の言うことに共感できないので、行動につながりにくくなります。行政は外部の専門家を頼りたがります。それではダメなんです。

 

地域住民の主体性(内発的動機)が発揮されるように「仕組み」を変えなければいけません、例えば気候変動へのアクションを地域で起こしていこうとするなら、一人ひとりが内発的動機を高めるような「仕組み」が必要なのです。

 

この「仕組み」は地域住民の参加と学習、共創、協働、連鎖、波及を活性化させるようにデザインされたものです。そういう「仕組み」がないと、ローカルSDGsへの内発的動機が高まらず、アクションは立ち上がっていきません。

 

一方、ローカライズされたSDGsのゴールは生半可なことでは達成できません。例えば2030年に温室効果ガスの排出量を半分にするためには、社会を変えるような大胆な変革、すなわち小手先ではない根本の構造を変える転換が必要になります。

 

まちをコンパクトにする、地産地消にする、公共交通を活性化するなどの根本の構造を変えるアクションに地域ぐるみで取り組む「仕組み」をつくることが必要です。

 

このためには、地域のリーダーや行政職員が本気になるとともに、地域を動かすことができる地域にいるフロントランナーが活躍できるようにしなければなりません。「100人の1歩」では大胆な変革になりません。フロントランナーが周りを巻き込んでプロジェクトを起こしていく。それを行政が本気で応援する。そんな「仕組み」ができれば、地域の人たちは行動を起こしていけます。


サークル

持続可能なSDGsの行動を行うために必要なこと

――人々がSDGsを行動に移せるようになった時、それを維持するためには何が必要だと思いますか?

一つの地域だけではなく、地域を超えたネットワークができていくことが大事だと思います。ネットワークを作り、行動し続けることの大変さを共有し、ノウハウを共有し、その中で助け合っていく関係をつくることができます。

 

えてして、地域のフロントランナーの関心は限られたテーマになりがちです。ただ、1つのことだけをしていると、活動が膠着化してきます。常に、新たな視点を得て、変化し続けることが必要になります。

 

SDGsの17の目標についていえば、例えば目標13(気候変動)だけをテーマにしていても参加者がなかなか増えず、手詰まりになります。

 

けれど、生物多様性に関する目標14や目標15と組み合わせることで森林を活かす脱炭素対策が生まれてきたり、目標3(健康と福祉)と組み合わせることで、歩いて健康づくりと脱炭素を進めるというような新しい取り組みが生まれてきます。

 

様々なテーマに取り組むフロントランナーが刺激しあい、それぞれが視野を広げて成長していくことで、常に新たなプロジェクトが生み出され、多くの人びとの参加と協働が活性化していくことに期待します。



――これは事業として、ある程度成立していなければ続かないと思うのですが、その辺りはいかがでしょうか?

事業の経済性は重要です。しかし、経済性だけで持続をするわけではありません。社会的意義が認められるという社会性があったり、行動を起こしたことで周囲の笑顔を見られるようになったりという精神性も大事です。

 

ビジネスとすることを重視すると、どれだけ稼げるのかというところばかりに注力してしまい、稼げないのなら継続しないという判断をしてしまいます。経済性と社会性、精神性。3つの側面が必要だと考えます。

 

持続可能な発展を実現していくうえで、市場経済の中にいる私たちにおいて、経済性は手段として必要です。ただし、経済性だけが手段ではありません。儲かるから人々はSDGsに取り組むのでしょうか。そうではないはずです。

 

――では最終的には、日本だけではなく世界も含めて、全てが一つになるのでしょうか?

様々なテーマがつながり、人と人がつながっていく、その先にはあらゆる存在の一体感をもった人々が自立しつつ共生する社会を目指していくことになると思います。

 

抽象的な言い方になりますが、SDGsの要点は自分以外の他者を内部化することです。自己中心的なものの考え方を持っている人が、他者……立場が違う人であったり、身体の特性や考え方が違う人であったり、人間以外の動物であったり、植物であったり、あるいは将来の世代であったり。自分以外のもの全てを理解し、共感し、一体感を持っていくこと、すなわち自己の拡張を図っていくことが大切だと思います。

 

こうした自己を拡張しながら成長しつづける人々が社会の中で活躍するようになることが、社会を変えていくうえで重要です。最初に、「仕組み」が必要だと言いましたが、その「仕組み」の中で、一人ひとりが自己を拡張して成長していくことができるでしょう。

 

持続可能な発展に向けた社会づくりと人づくりの相互作用をつくり、その変化にもまれながら人が成長していくこと、そうした「仕組み」の重要性を強調したいと思います。


サークル

SDGsと地域活性化のつながりによってもたらされるもの

――SDGsと地域活性化には、どんなつながりがあると思われますか?

私は編著で「SDGsを活かす地域づくり」という本を2022年4月に発刊しています。その本の中で、北九州市のSDGs商店街を取り上げています。SDGs商店街は、SDGsをテーマにした商店街のことです。ここの商店街は、もともとアーケードにソーラーパネルをつけていたという経緯もあったわけですが、SDGsをテーマにして、商店街にあるお店を見直し、SDGsにちなむイベントを展開してきています。

 

これは、SDGsというメガネを利用して、今あるものの価値を再確認し、価値をさらに高めていく手法です。そしてそれをアピールする。アピールすることで外から光があたり、SDGsをテーマにした自己組織化が進んでいきます。

 

本の中では、地域の公共交通機関(鉄道やバス)も、存在自体がSDGsに貢献するものだとして、取り上げています。学生、免許のない人、年齢によって免許を手放さなければいけない交通弱者がいて、その人たちを取り残さないように、誰もが乗れる電車やバスがあるわけです。鉄道会社やバス会社は、公共交通機関がSDGsにつながることをあまり謳いませんが、その価値を再確認し、地域で共有していくことで、地域の支援を得て、地域づくりと一体となった公共交通機関の活性化が展開できていきます。

 

あともう一つ。SDGsは接着剤になると思っています。

 

SDGsの目標は、これまでやってきたことも含まれているので、私は「どうしてこれを改めてSDGsだと言う必要があるのか」と思っていた時期もありました。しかし、高校生と話をするときに、高校生たちは学校でSDGsを学んでいるので、私が「一緒にSDGsをしよう」と言うと、関心をもってくれることに気づきました。

 

地域の企業も同じです。元々地域にある小さな工務店は、地域にある材木を使い、地域の職人に依頼をして建物を作っています。そうした取り組みはまさにSDGsに貢献する価値を持っています。そんな工務店の人たちも、SDGsに関して何かできることはないのかと模索しながら、モヤモヤした気持ちを抱えています。そこで「一緒にSDGsを考えませんか?」と言うと、工務店の人たちとつながることができた経験があります。

 

地域の造り酒屋の集まり、あるいは歯医者の集まりで、SDGsの話をしたことがあります。いずれの仕事もSDGsに取り組んでおり、SDGsを接着剤にすることで、つながっていけます。

 

様々な人とのつながりが、SDGsという接着剤によって増えていくのです。地域でのつながりが増えれば、地域は活性化していきます。

 

―― 書籍/活動紹介 ――

  • 持続可能な発展に向けた地域からのトランジション

    持続可能な発展に向けた地域からのトランジション

    白井 信雄・栗島 英明 編著

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