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人体へ影響が出てからでは手遅れ?! 海洋ごみ問題解決の糸口を探る – 内田 圭一先生 SDGs特集記事|リンクウィズSDGs
人体へ影響が出てからでは手遅れ?! 海洋ごみ問題解決の糸口を探る

人体へ影響が出てからでは手遅れ?! 海洋ごみ問題解決の糸口を探る

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SDGs目標14番「海の豊かさを守ろう」では、達成すべきターゲットの一番に海洋ごみ問題を挙げています。中でも世界的に問題となっているのが、海中や沿岸に存在するプラスチックごみです。
今回お話を伺った、東京海洋大学の内田先生たちの研究によると、日本周辺海域のマイクロプラスチック分布の密度は非常に高く、世界の海の平均比27倍にもなるそうです。
海の中で一体何が起きていて、人体や生物にどのような影響があるのでしょうか。海洋ごみの専門家である内田先生に、わかりやすくお話しいただきました。

【Profile】内田 圭一(うちだ けいいち)先生

東京海洋大学 海洋資源環境学部 海洋資源エネルギー学部門 教授。
東京水産大学(現・東京海洋大学)研究科修了後、同大学練習船の航海士として勤務。訓練航海中に海洋生物や漂流ごみ等を観測し、ごみの分布傾向などに関心を抱く。2003年からは船を下り東京水産大学助手として教育研究活動を始め、2014年より環境省の委託を受け、沖合漂流ごみの実態調査を開始。2017年海洋資源環境学部准教授、2022年より現職。
東南アジア諸国との連携調査や小学校での環境出前授業など、海洋ごみ研究の第一人者として幅広く活動している。

サークル

海洋ごみの発生源を特定するため
沖合の実態調査を開始

――最初に「海洋ごみ」とは何を指すのでしょうか。

海洋ごみとは、海面・海中を漂う「漂流ごみ」、海岸等に流れ着いた「漂着ごみ」、海底に沈んだ「海底ごみ」の総称です。その中で海洋プラスチックごみについてはサイズで分けて、5mm以下のものを「マイクロプラスチック」と呼んでいます。

 

内田先生インタビュー_マイクロプラスチック画像
採集されたマイクロプラスチック

 

――内田先生はなぜ海洋ごみの研究を始められたのですか?

本学の水産専攻科と大学院修了後、大学練習船の航海士として勤務したことがきっかけです。

当時、航海中に毎日目に付いたもの、船や海鳥、漂流物等を記録し、その緯度・経度などを地図上にプロットしていったんです。するとごみが多い海域と少ない海域があることに気づいたんですね。

海洋ごみに関してはまったく専門外だったのですが「これは面白い」と思い、データを取りまとめて学会で発表しました。

 

一方、海洋ごみに関する政府の取り組みとして、2009年に「海岸漂着物処理推進法」が施行されました。ただ、海岸を清掃してもまたすぐにごみが漂着してしまう。そこでごみがどこから来るのかを特定するため、沖合の実態調査が必要となりました。

こうした経緯で、2014年に本学が環境省の委託を受け、本格的に沖合域の漂流ごみの調査を始めることになったんです。その際、航海士時代に漂流ごみを調査していた私が担当者の1人に選ばれました。

 

サークル

日本周辺のマイクロプラスチック量は
世界の海の平均比27倍

――現在はどのような研究をなさっているのでしょうか。

主に海洋プラスチックごみのサンプリング手法、言い換えると、正確なデータを取るための手法を研究しています。特にマイクロプラスチックの調査・分析をするときは、私たちがサンプリングしたものを海洋物理や環境科学の専門の先生と協力しながら分析する、という形で研究を進めています。

 

なお各国でサンプリング結果を比較するには、手法の標準化が必要です。2015年の国際会合で、この分野において日本が主導していくことが合意され、私も提言をするなど協力しています。

 

マイクロプラスチックの採集風景

 

――これまでのご研究でどのようなことがわかりましたか?

日本周辺海域のマイクロプラスチックを調査したところ、分布密度(個/㎢)が非常に高いことが判明しました。世界の海の平均的な量の27倍(※1)にもなるホットスポットです。

さらに2019年に行ったシミュレーションでは、2060年の北太平洋におけるマイクロプラスチック分布密度が、2020年比で約4倍になるという結果が示されています(※2)。

  • Atsuhiko Isobe, Keiichi Uchida, Tadashi Tokai, Shinsuke Iwasakia.
    East Asian seas: A hot spot of pelagic microplastics
    Marine Pollution Bulletin, 2015, 101, 618‒623. doi:10.1016/j.marpolbul.2015.10.042 Open Access


日本周辺海域にマイクロプラスチックが多い原因には、東アジア・東南アジア諸国から海洋へ流出するプラスチックごみの量が、非常に多いことが関係しているようです。

世界でプラスチックごみの流出量が多い国トップ10には、中国・インドネシア・フィリピン・タイなどが名前を連ねています(※3)。

こうした地域から流出したプラスチックごみが、漂着し海岸で劣化しマイクロ化したものが、海流に乗って日本周辺海域に集まっているのではないか、と考えられています。

このように海洋でプラスチックごみには国境がないことから、この問題に取り組むには、東アジア・東南アジア諸国との連携が欠かせません。

ただ、中には海洋プラスチックごみの研究が始まったばかりの国もあり、調査・分析の方法が確立されていないことから、結果を比較する際に問題がでてしまいます。そのため私たちの研究グループは、東南アジア諸国と協力して海洋プラスチックごみの実態把握を進めています。

 

 

――東アジア・東南アジア諸国でプラスチックごみの流出量が多いのはなぜでしょうか。

ごみ処理のインフラが、あまり整備されていなかったためではないでしょうか。

ただ、近年は中国や東南アジアでも、プラスチックの削減に関する規制を強化しています。今後、継続的に調査する中で、プラスチックごみは徐々に減っていくかもしれません。

そういう意味でも、世界各地で行われているプラスチック規制の効果を、これからも海の上から注視する必要があります。

 

※1 East Asian seas: A hot spot of pelagic microplastics.
※2 Abundance of non-conservative microplastics in the upper ocean from 1957 to 2066.
※3 Plastic waste inputs from land into the ocean.

サークル

SDGs制定による効果は?
子どもを中心に高まる意識

――SDGsが提唱された2015年以降、海洋プラスチックごみに関する変化は見られますか?

海のプラスチックごみが減少した実感はあまりない、というのが正直なところです。ただ、社会的な意識の高まりは感じています。

2016年に発表された、2050年までにプラスチックごみが魚の総量を超える(※4)、というセンセーショナルな論文は、覚えている方も多いのではないでしょうか。同じ頃、東京湾のカタクチイワシからマイクロプラスチックが検出された(※5)との研究結果が発表されました。

これらのニュースが報道されて以降、海洋プラスチックごみが注目され始めた印象です。

 

 

なお面白いことに、大人よりも子どもの方が環境問題に強い関心を持っているようです。

近年は学校の総合授業などでSDGsについて学ぶ機会が増えて、海洋プラスチックごみ問題もよく話題になっていると聞きます。
報道や授業で多くの人がプラスチックごみに関心を持ち、生産量を減らしていけば海洋ごみも減少するでしょう。そうなれば上記の論文に記された未来を回避できるのではないか、と言われています。

大切なのは、プラスチックの使用を抑えること、そしてうまくリサイクルして資源を循環させることではないでしょうか。

 

※4 The New Plastics Economy Rethinking the future of plastics.
※5 環境研究総合推進費 終了研究成果報告書
沿岸から大洋を漂流するマイクロプラスチックスの動態解明と環境リスク評価.

サークル

人体・生物への影響は調査段階
だが判明してからでは遅い

――海洋プラスチックごみは、生物や人体にどのような影響を及ぼすのでしょうか。

現状、問題が無いとは言い切れませんが、海洋プラスチックごみによる影響はまだ明らかになっていない、というのが実際のところです。
まず人体への影響ですが、人は一週間にクレジットカード一枚分のマイクロプラスチックを摂取している、という話はよく聞きますよね。実際、ペットボトルのふたや菓子袋をぱっと開けた瞬間に、マイクロプラスチックが発生して中の飲料やお菓子にトッピングされます。

ただし摂取してもそのまま排せつされるため、体の中に溜まっていくわけではありません。

 

――マイクロプラスチックに付着する、汚染物質による健康被害も心配されています。人体への影響はないのでしょうか。

確かにプラスチックは海洋の汚染物質を吸着しやすく、これらを保有する魚介類が取り込むと汚染物質が移行すると考えられています。いわゆる生物濃縮です。しかし結論を言うと、今はまだこのような経路から健康被害を及ぼすレベルには達していない、という見解が一般的です。
なぜかというと、海中のプランクトンも汚染物質を取り込んでおり、食物連鎖によって人は一定程度、汚染物質を摂取しているからです。

現時点で人が口にする汚染物質は、こうした自然に由来するものが多く、マイクロプラスチックに由来する量はまだそれほど高くないと推定されています。
このため健康への影響は、現時点ではさほど大きくないと考えられています。しかしプラスチックごみがこのまま増え続けると、いずれ逆転する可能性はゼロではありません。

 

――海洋生物への影響は認められていますか?

実際、魚介類や海鳥などの海洋生物の胃内容物から、プラスチックが見つかっているニュースはよく目にしますよね。

しかし、プラスチックを取り込んだために生物が直接死に至るかというと、明らかな事例は乏しく、不明な点が多いのが現状です。この問題についても、今後調査を続けて明らかにしていく必要があります。

 

このように人体や生物への影響はまだ不明瞭なものが多い。ただ間違いなく言えるのは、海洋マイクロプラスチックの回収は現時点では非常に難しいため、人や生物に影響があると分かったときには、既に手遅れだということです。手の施しようが無くなる前にしっかりと手を打つべきだ、というのが研究者たちの見解です。

 

サークル

日本のプラスチックリサイクルへの課題

――海洋プラスチックごみに関する、日本の現状や課題について教えてください。

日本ではプラスチックごみの分別がしっかり行われており、回収システムは管理されていると思います。

一方で、プラスチックごみのリサイクル率は約86%と、高い水準で有効利用されているように見えますが、その内訳をみると、62%は「サーマルリサイクル」といって、焼却処理して熱エネルギーに変換しているのが現状です。

結局CO2を排出しているんですね。残りの24 %は資源として「マテリアルリサイクル」されています(※6)。

 

――なぜもっと多くのプラスチックごみが資源としてリサイクルされないのでしょうか?

第一に、再生プラスチックは着色料などの添加物が混入しているため、材質があまり安定せず、品質面での問題があります。

さらにプラスチックごみを再利用するには、多額の費用がかかるんです。

回収したプラスチックごみをきれいに洗浄して、材質別に分別、その後ペレットという小さな粒上の素材に成形します。こうした過程には多くの人手が必要です。このため、企業がどこまで投資するのか、値段が高くても消費者は買うのか、といった課題も考慮しなければなりません。
実際、人件費が安い途上国ではしっかり分別して資源化し、かつ再生プラスチックに対する需要も一定程度あるそうです。日本でもこうした問題がクリアされると、状況が変わるのではないでしょうか。

 

 

――日本が海洋プラスチックごみを減らすためには、何が重要でしょうか?

私が一番大切だと思うのは教育です。

もちろん高い環境意識を持つ大人はたくさんいますが、プラスチックの利便性に慣れてしまった大人の行動を変えるのは、なかなか難しいのでは、と感じています。
逆に、将来ある子どもたちに「今何が起きているのか、どう変えなければいけないのか」をしっかり伝えると、熱心に聞いてくれます。

子どもが家族に話すことで、大人がはっとさせられることもあるでしょう。そうやって社会の意識を変えていくことが必要ではないでしょうか。
そしてもう一つ重要なのは「多少高くても環境に良い商品を買う」社会の実現です。今は景気が悪いため少しでも安いものを買う風潮ですが、経済が上向いて気持ちにゆとりが出てくれば考え方も変わってくるのではないか、と考えています。

 

※6 プラスチック循環利用協会 プラスチックリサイクルの基礎知識2020

サークル

プラスチックごみを減らすために
大切なのは一人ひとりの意識

――海洋プラスチック汚染を減らすために私たちができる取り組みとして「3R」、すなわちReduce(リデュース)、Reuse(リユース)、Recycle(リサイクル)が推奨されています。効果は出ていると思われますか?

一定の効果はあると考えています。単純に、レジ袋の有料化により使用量が減少しているため(※7)、その分、おそらくごみも減っているでしょう。

一方で今、海洋ではマスクごみが生物に取り込まれている事例も報告されています。使用量の急増に伴い、ごみとなる量も増えその一部が海に流れ込んでいることを考慮すると、やはり「使わない」ことはとても重要なのだと思います。

 

さらに大切なのは、不便さを受け入れることではないでしょうか。

プラスチックは扱いやすく、衛生的で非常に便利ですよね。別の素材に変えると不便に感じることがたくさんあるでしょう。

不便さをいかに消費者が受け入れるか、ということが今後求められていくと思います。
もちろん別の素材に置き変えられない製品もあります。例えば注射器など医療系の器具類は、使い捨てできるプラスチック製が安心でしょう。

大切なのは「プラスチック=悪」と捉えて使用をすべて止めようとするのではなく、メリットとデメリットを正しく理解することです。

その上で代替物に変えられるものと、変えられないものを冷静に判断することが大事だと思います。生活しやすい環境を次世代に残すことも、私たちの役割だからです。

 

――最後に、内田先生が今後取り組みたいことを教えてください。

海を取り巻く環境がドラスティックに変わっていく中で、研究者として事実をしっかり捉え、広く一般の方に理解してもらえるよう努めていきたい。

海洋プラスチックに限らず、地球環境に関して自分に何ができるかを、常に考えています。もちろん一人の力ではどうにもなりませんが、悪い方向に行き過ぎてしまうのはなんとか止めないといけません。
事実を伝えることで、ひいては皆さんと一緒に持続可能な社会の在り方を模索していきたい。

SDGsは一人ひとりが考えることで初めて達成できるものなので、そのきっかけ作りができれば、と考えています。

 

※7 環境省「レジ袋有料化(2020年7月開始)の効果」

 

 

→東京海洋大学SDGsホームページ 内田先生の詳細はこちら

―― 書籍/活動紹介 ――

  • 内田先生の講義動画どうなっているの? 海のごみ問題!

    内田先生の講義動画
    どうなっているの? 海のごみ問題!

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