「自然との共生」を合言葉に。
つないでいきたい自然への思い。
基礎化粧品「ドモホルンリンクル」でおなじみの再春館製薬所。
熊本・阿蘇の大自然に抱かれた広大な敷地に本社・工場を構え、「自然との共生」をテーマに、さまざまな持続可能な開発目標に取り組んでいます。その中でも、太陽光発電への取り組みは特に印象的です。
そこで今回は、再春館製薬所が太陽光発電をはじめた理由、現在の発電量、維持管理について、さらに環境への取り組みなどお話をうかがいました。
㈱再春館製薬所
再春館製薬所(熊本県・益城町)は、誰にでも訪れる老化による悩みや苦しみを和らげるため、基礎化粧品「ドモホルンリンクル」、生薬製剤「痛散湯」、機能性表示食品「歩みのゼリー 根のちから」等の製造・販売を通じ、いきいきと幸せに歳を重ねるお客様を応援しています。
自然環境を考えずして、
企業の存続はあり得ない
――再春館製薬所のSDGsといえば、敷地内に広がる太陽光パネルがとても印象的です。太陽光発電に取り組むことになった背景について教えてください。
再春館製薬所の製品には原料として、自然に由来するものが数多くあります。太陽光発電に取り組んだのも、自然から多くの原料をいただいていることがきっかけになっています。
初めて太陽光パネルに取り組んだのは、2001年のこと。熊本県上益城郡益城町に新社屋「再春館ヒルトップ」を設立した際に、工場の裏に小規模な太陽光発電パネルをつくったのが第一歩でした。
――SDGsの発表よりも、ずいぶん前の2001年からスタートしていたことに驚きました。なぜ、太陽光発電に取り組むことになったのでしょう。
「再春館ヒルトップ」設立のときから、太陽光発電だけでなく、「自然との共生」をテーマに、当初から積極的な環境対応に取り組んで参りました。太陽光パネルは、「自然環境を考えずして、企業の存続はあり得ない」と言っていた、現会長西川通子の言葉もあってのことです。
太陽光パネルの設置後に、太陽光以外の風力などについても調査を行いました。しかし、再春館製薬所がある益城町の丘の上では十分な風力を得られないことがわかりました。
情報もなにもない状態から
太陽光発電をスタート
――2001年ごろ、太陽光発電はどのような状況でしたか?
太陽光発電を始めた当初は、太陽光パネルについての情報もほとんどなく、当時の担当者もとても苦労したそうです。しかし、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構のフィールドテスト事業と巡り合うことができ、大規模な太陽光パネルの設置に向けて動き出すことができました。
私たちからのお願いは「屋根に載せられるところはすべてお願いします」ということ。今でこそ、太陽光事業はとても盛んになりましたが、当時開発や工事に関わった方たちはとても驚かれたそうです。
――今では「ヒルトップ」のあちこちに、太陽光パネルを見ることができますね。
はい、再春館製薬所にお越しいただければ、一目で分かるのですが、工場の壁面に縦向きに太陽光パネルを貼っています。また、屋上に設置したパネルをより近くでご覧いただきたいと思い、工場の施設に後付けで展望エレベーターも作りました。
2014年に自社電気需給率
100%を達成
――2001年から10年以上かけて、太陽光パネルを増設して現在に至る訳ですが、その歩みについて教えてください。
2001年当初は、工場の裏に太陽光パネルを設置し、自社電気需給率7%からスタートしました。2005年、2008年、2011年と、それぞれ太陽光パネルを増設し、自社電気需給率25%を達成。2013年にもパネルを増加し自社電気需給率50%となり、そして、2014年には阿蘇郡西原村にメガ・ソーラー「太陽の畑」が完成し、自社電気需給率100%を達成することができました。
この「太陽の畑」という名前には、自然に恩返しをするために、自分たちが使う電気量を100%つくりたい、自然の力を借りて、地球の未来を耕すという意味が込められています。そして、設置したパネルの端から端までは、約600mもあり、そばで見るとその広さに驚かれると思います。
発電設備の出力は7,810kw、年間発電量は約8,600,000kwh、パネル部分の面積は東京ドーム(46,755m²)よりも広い49,000㎡となっています。この発電量を一般の住宅における年間電気使用量に換算すると、約2000世帯分にもなります。
また、年間発電量を火力発電に換算すると、200万リットルの石油の削減と、約3,400tのCO2の削減ができます。
――2014年当時、これほど大規模なメガソーラーはあまり無かったのではないでしょうか。
熊本県においては珍しかったと思います。世の中では電気を売ることを目的とした太陽光発電への注目が集まる中で、私たちが目指したのは、地球環境へ負担をかけない会社づくりです。
また、10年以上の期間をかけて太陽光発電システムを完成させるとともに、日頃から節電や身近な環境問題に取り組んできました。
無駄な電気を使わない、排出ガスを減らす、敷地の豊かな緑で回収するといったことなども私たちの環境問題への取り組みの一つです。そのため、私たちが太陽光発電による自社電気需給率100%を目指したのは、自然へ負担をかけない会社づくりにおいて、なくてはならない活動だったと思っています。
――49,000㎡もの面積の太陽光パネルを維持管理するのは大変ではないですか?
太陽光パネルの汚れは雨風で落ちることと、発電効率に極端な影響がないために、大規模な清掃は行っていません。定期的な点検や、熊本は特に台風が通ることも多いので、台風前後での見回りは欠かさず行っています。
ただ、太陽光パネルが鳥の止まり木になってしまうとフンで汚れてしまうため、ピアノ線を張るなどの工夫をしています。
太陽光だけではない
環境問題へのさまざまな取り組み
――再春館製薬所では、太陽光発電以外にも自然エネルギーを活用されているそうですが、その取り組みについて教えてください。
主なものとしては、太陽の光を集めて工場内に灯をともす集光器「ひまわり」、氷蓄熱空調システム、煎じカスや生ゴミなどの堆肥化、排水の再利用などの取り組みを行なっています。
――その内容について、もう少し詳しくお話しいただけますか。
まず集光器「ひまわり」は、自然光を工場内に取り入れる設備です。太陽の直射光を、虫眼鏡のような12個のレンズで集め、その光をダイレクトに光ファイバーケーブルで照明として送り届けます。この「ひまわり」による照明は、曇りや雨になると明かりが弱くなってしまうので、工場で働く社員にとって、天気の変化を知ることができる目安にもなっているようです。
次に、氷蓄熱空調システムですが、これは電力消費の少ない夜間電力を用いて製氷し、それを解かして冷房などに利用するという仕組みです。夏場の冷房負荷による偏った電力需要を年間を通して均一化にすることであり、電力プラントの抑制や、空調設備の小型化などを図ることができます。
また、製品づくりの過程で生じた生薬の煎じカスや、社員食堂から出た生ゴミの堆肥化も行なっています。私たちは煎じカスや生ゴミをコンポスターで2次発酵させ堆肥化し、それを敷地内の野菜畑に撒き、野菜を収穫して、社員食堂で提供するという環境循環システムを作りました。こういった活動によりゴミゼロが実現できているため、再春館製薬所に生ごみ収集車が来ることはありません。
最後に、排水の再利用です。2007年に本社・コールセンターを建設する際、地下に大きな水槽を作りました。もともと工場で製品づくりに使った後の水は、社内の浄化槽で魚が住めるほどにきれいに浄化して川に還していたのですが、さらにトイレの水として利用できる仕組み作りを行っています。
――「ヒルトップ」は、小高い丘の上に緑がとても多い印象を受けます。敷地内の緑化についても、何か積極的な取り組みを行われたのでしょうか。
以前に、「木のふる里」運動という活動を行っていました。九州各県の新聞でご家庭の事情によって切り倒さざるを得なくなった大きな樹木を募集し、敷地内に植え替えた活動です。この時に寄せられた木は今でも「ヒルトップ」のシンボルとして大きく成長しています。
30万平方メートルにも及ぶ敷地を整備する際には、生態系を壊さないように事前に調査しました。もともとあった自然を活かしつつ、荒れていた土地は整地をして、芝生は社員の手で敷き詰めていき、今のヒルトップができあがりました。
シカやウサギなどの動物たちを見かけ、渡り鳥の巣作りや池で泳ぐ姿は季節の風物詩になっています。
キーワードは、「自然との共生」
「もったいない」「躾 (しつけ)」
――今までのお話で、会社全体で環境問題に取り組んでいらっしゃることがわかりました。ここに至るまでの社員への教育はどのように行なっていたのですか?
私たちは、日頃から「もったいない」の精神を大事にしています。社員には日常生活の中で、トイレの電気をこまめに消す、社員食堂での食事を残さない、裏紙を使う、ごみを正しく分別する、などを意識してもらえるように、掲示物や声かけを積極的に行っています。社員全員が意識して行動すること。これが習慣となって、再春館製薬所の社員一人ひとりに根付いていくよう取り組んでいます。
――「もったいない」と「躾」は、重要なキーワードですね。
はい。再春館製薬所の環境への取組みは、前に出てきた「自然との共生」という言葉と、「もったいない」「躾(しつけ)」という言葉、この3つの言葉にすべてが結びつくと思っています。「自然の共生」は、すでにお話ししましたが、自然の恩恵を受ける漢方の製薬会社として私たちの果たすべきことだと考えています。
そして「もったいない」は、日本独自の言葉です。社内には、「それ、もったいなかよ(熊本弁)」の精神で、至るところに張り紙があります。コールセンターの照明も半分点ければ十分仕事ができるだけの明かりが確保できます。どれも、会社で生活する上でできる環境への取り組みとして社内で根付いています。
「躾」は、社員一人ひとりの意識づけだと考えています。
私たちの環境への取り組みは、毎日の生活のなかで実践できるものが多くあり、会社にいる1000人の社員が理解、共感し、習慣化されていくことが大事だと思っています。そこから社員の家族やその周辺に少しでも波及していけば、「環境問題に取り組むことの大切さ」がどんどん芽生えていくと考えています。
一人ひとりが環境問題に取り組み、
継続することが大切
――ありがとうございました。最後に、SDGsや環境問題について再春館製薬所の考えをお聞かせください。
環境問題への取り組みを考えるときに、大きな設備投資をすることも場面によっては必要なことだと思っています。(実際、太陽光パネルも積み重ねていくうちに大規模になり、時間もかかりました)
それに加えて、繰り返しになってしまいますが、私たちが一番重要と考えるのは一人ひとりが日々の生活の中で意識をすることだと思っています。そして、様々な取り組みに対して「なんで再春館製薬所が環境問題に取り組んでいるのか(目的:なぜならば)」をしっかりと伝えていくことは、今の時代において、とても大事だと思っています。
会社で決めたルールを守らない、知らない社員がいれば、先輩社員たちが声をかける、場合によっては叱る。押し付けるのではなく、なぜこうなっているかを説明して、理解してもらわなければなりません。
みんなが思いに共感できるから、会社で一丸となって取り組みを推進して、継続することができるのだと信じています。
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