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未来を見据える街づくり環境経営とSDGs – 九里 徳泰先生 SDGs特集記事|リンクウィズSDGs
未来を見据える街づくり環境経営とSDGs

未来を見据える街づくり
環境経営とSDGs

SDGsと一口に言っても、大企業と中小企業、中央都市と地方都市では、取り組む内容は自ずと変わってきます。
今回は地方都市での街づくりや、企業における環境経営とSDGsについてお話を伺いました。

【Profile】九里 徳泰(くのり のりやす)先生

相模女子大学大学院MBA社会起業研究科教授。富山市政策参与。神奈川県出身。

1989年に中央大学を卒業後10年間、ジャーナリストとして世界80か国を取材。冒険家としても活動し、20代でアメリカ大陸3万km人力横断を達成している。現在は相模女子大学大学院でサステナビリティ・マネジメント論等を教える他、富山市で政策参与として環境未来都市、コンパクトシティを用いた地域活性化政策を担う。

サークル

地方都市における「教育」と「交通と福祉」

――これまで九里先生が取り組まれてきたことを教えて頂けますか?

私は2000年から、富山市の政策参与に携わっています。そこでは、環境モデル都市、環境未来都市、レジデンスシティ、SDGs未来都市といったように段階的に都市計画を進めてきました。一つ一つの施策を打っていくと、最終的にSDGs未来都市が完成するというものです。現在は進行途中ですが、計画通りに進んでいます。

 

――具体的にはどのような内容でしょうか?

富山市では5つの取り組みをしていますが、今回は「教育」と「交通と福祉」の2つをご紹介します。

 

「教育」については、富山県にはユネスコスクール加盟校があり、国連の持続可能な開発のための教育(ESD)を、小中高の学校教育の場で行っています。未来のコンパクトシティやSDGsを引き継ぎ、支える人材を育む取り組みを6歳、7歳ぐらいから行っています。

 

次に「交通と福祉」ですが、お話に入る前に知っておいてほしいことがあります。SDGsはその地域によって、できること、今すぐにはできないこと、しなければならない施策が異なります。富山県は地方都市です。都会と比べると人口減が進んでおり、高齢者比率が高くなっています。

 

人口が減少すると、公共交通機関が利用しにくくなります。地方都市に住む人たちは街に出る移動手段が自動車しかなくなり、結果的に車社会に。それが全て悪い、というわけではないのですが、そういう現状があります。

これからの未来のことを考えるとガソリンが環境に悪いというのは周知の事実で、脱炭素社会にしていく必要があります。

 

また、高齢化が進んでいる地方都市ですが、高齢者になると自ら車を運転できなくなります。その時にどうするべきなのか、という問題も浮上してきます。こういった問題は、どこの地方都市でも起こりえます。交通と福祉の問題は、切実に向き合って改善していく必要があるということです。

 

サークル

富山におけるSDGs未来都市とは

――富山ではどのように「交通と福祉」の問題を解決しようとしているのでしょうか?

 実はヨーロッパではすでに脱自動車の政策を、地方都市だけでなく中央都市でも行っています。脱自動車は不可能ではありません。富山では脱自動車とまではいかずとも、高齢者の方々が、車を使わなくても街中に来られる街づくりを目指しています。

 

富山の中でも街から離れた場所に住んでいる高齢者は、車がないと街に出て来られない、けれど高齢のため車の運転ができず、外に出られない。

こういったことを解決しようというのが、LRT(ライトレール・路面電車)の導入をはじめ、公共交通を軸としたコンパクトシティ政策です。

SDGsの考え方を福祉に置き換えると、誰もが住みやすい場所を作ることだと思います。街中居住で、自分で車を運転をしなくても歩いて過ごせるような街づくり、これが私はSDGsにおける、未来の街の姿だと思っています。

 

富山市を走るLRT
富山市のLRT

 

富山市のシェアサイクル
富山市のシェアサイクル

――SDGs未来都市の完成形のイメージはどのような街でしょうか?

環境に配慮していて住みやすい社会です。

環境への配慮では、温室効果ガス(GHG)、各種化学物質の管理、生物多様性を考えた社会システム。これらがきちっと機能しているのか。

また富山では洪水などの防災もあるので、生態系を保ちつつ災害が少ないレジリエンスの高い街にしようと考えています。仮に災害が起きても、それに強い街づくりですね。

 

一方で住みやすさでは、先ほどもお伝えしたコンパクトシティを中心とした街中住居で歩いて生活ができること。生活の周りには企業もあり、学校もあり、自然も豊かな環境であること。富山の景色・環境を再認識して、住む人が幸せを感じる豊かな暮らしをしていきましょうと言うのが目標です。

 

その他には、女性の社会進出といった人権の部分。働きがいのある場所があるかどうかも大きなポイントです。富山の産業は、モノづくりが約38%と全国平均より10ポイント高いです。そういった産業の中で、人が安定し、しっかりとした仕事があることも重要。SDGsではディーセントワークと言いますが、働きがいのある仕事があるかどうか、その部分もとても大事です。

 

現状、女性は事務労働が多いのですが、もっと女性が活躍できる社会になれば、人口が減っている1830代の女性も増えるのではないかと考えています。今現在、子育て世帯をサポートする施策を進めているので、現実化していくと思います。

 

物事は一気には変わりませんが、大きな目標を立て毎年コツコツと前進することで、SDGs未来都市として確立していければと思っています。

 

サークル

明確な未来のビジョンを持つ

――九里先生は行政側で活動をされていますが、産業に対しても考えを持って動いているのは珍しいことではありませんか?

行政の場合、産業や商業の部分に対し一歩引いている傾向はあります。それは民間がやることだから、私たちは手を出しません、と。

ですが私は、行政の立場からしても、積極的に産業や商業のビジョンを描く必要がある思っています。SDGsの17番にある共働がありますよね。一緒にやりましょう、コラボレーションしていきましょう、と行政側が旗を振る街づくりはどうですかと、行政に提案をしてきました。

 

とはいえ行政が企業に命令するわけではありません。企業側が本気でSDGsをしたい、コラボレーションをしてSDGsの活動をしたいと言った時に、行政がサポートできるかどうかです。私は行政と企業のパートナーシップ作りが重要だと思っています。

 

パートナーシップで言うと、市民同士の繋がりも大事です。

富山の地域社会は人口が減っていますが、元々そこに長く住んでいる人も多いのが特徴です。在所といわゆる地域内での交流、そして協働が必要です。そこを再構築していくことも、私は課題だと捉えています。

 

そんな中でも重要なのは、目指す「ビジョン」です。

それぞれが未来を思い描くだけではなく、大きな街のビジョンをみんなで作ること。そこに住む人たちの意識を揃えることも必要です。2030年までにできること、ではなく2050年まで時間をかけて大きなビジョンを持ち、全員で向かっていく。そうすることで、パートナーシップは強化されますし、できることも増えます。

 

こういった動きをすることで、生活者目線に立った時に、富山に生まれて良かったなと思える人が増える。住んでいる人が心の底から、「あぁ、ここで暮らしてよかった」と思えるような街づくりを、私はしたいと思っています。

 

サークル

環境経営とは「環境に問題を起こさない」経営をすること

――ここで改めて、環境経営についても教えて頂けますか?

環境経営は企業が行うものと思われがちですが、行政でも、非営利組織でも、どの立場であっても環境問題を起こさない組織とシステムづくり、と私は定義づけています。

 

環境経営の基本は、環境問題を起こさないこと。最低限、今よりも環境を悪くさせないことが大事なのです。もちろん、国際的に削減する目標が出てくれば、削減を行う必要がありますが、その目標も達成できれば、それ以降は現状維持になります。

 

また「プロアクティブ環境経営戦略」というものがあります。プロアクティブというのは、先験的に環境経営を行う、つまり未来予測を企業が行い、それをもとに企業行動をするということです。

私も富山市で未来予測をしていますが、企業においても、業界からも、世界からも求められていなくても「おそらく未来社会にすべきことはこれだ」と気付いた企業が、先陣を切って行動することです。先陣を切るにはリスクもありますが、もし未来予測が当たれば、その社会が来た時に先行者優位、競争優位の立場に立つことができるので、企業利益に結び付きます。行政であれば他の地域より環境のいい社会に市民が暮らせることに結びつきます。

 

ただし必ずその未来が来るとは限りません。政府も、持続可能な社会を謳っていますが、持続可能な社会像は政府の中でもいくつかのパターンがあります。ハイテクだったり、反対に里山のような形だったり。

 

未来予測が外れたとしても、環境に配慮した未来を予測しているため、環境に対して良いことをしていることには変わりません。つまり、してはいけない環境経営というのはないということにもなりますね。

 

サークル

今後、環境経営が目指す方向は変わらない

――現在と2030年以降の環境経営では求められるものが変わると思いますか?

基本的には変わらないと思います。

1997年に国際標準化機構によりISO14001という、環境マネジメントシステムが出来ました。その後、3回改定はありましたが、方針の部分は変わっていません。

変わった部分は、これまでは事業所単体で行うものが、ステークホルダー、利害関係者とともにパートナーシップを組んで一緒にやりましょうという部分です。

例えばカーボンマネージメント。いかに脱炭素ができるかどうかを、サプライチェーンを念頭に行うことになりました。ヨーロッパでは脱炭素のロードマップはもう見えてきたと言われています。

 

次の問題が生物多様性です。

気候変動と同じく、国際会議で生物多様性の話し合いが行われています。

その中で常に言われているのが、温暖化対策は進んでいるものの、生物多様性に関しては全く達成できていないということです。これは施策が上手くいっていないのではなく、生物種の絶滅スピードが極めて速く減速すらできていないところに問題があります。

 

人間の人口は、現在80億人を突破し、おそらく100億人まではいくでしょう。

その状況で、生物多様性が2030年以降の環境経営の中で、さらに強く求められると言われています。

 

何をすべきかはもう見えているため「企業としてどこまで行いますか?」という話になります。

取り組みをしていない、もしくはできていない会社は、資本主義マーケットからはドロップアウトしていくことになるでしょう。

というのも、ESG投資で世界の格付け機関が評価をしているからです。その評価を見て、投資家たちはグローバルな視野を持ち、評価の高い企業に投資をします。何もしなければ評価は低くなるため、投資をしてもらえなくなります。だから企業は環境経営を行っているという側面もあります。

 

サークル

SDGsをする、しないを問うている時期ではない

――企業が環境経営やSDGsを行っていくとしたら何から始めればいいと思いますか?

環境経営を何から行えばいいのかという議論は、1990年代後半から2000年に大企業で行われていたことです。今から25年前の波が今、地方の中堅企業や都会の中小企業、地方の中小企業に来ています。私も25年前、助教授だった頃に東京の大企業で同様な議論をしていました。

何をするか以前に、私の経験からすると企業の社長が環境に対してどう思っているのかということに尽きると思います。

環境に対して何も思っていない人が、環境に対する取り組みをするというのは組織としておかしいですよね?

例えば、周りがうるさいから仕方なく勉強をさせられている生徒は成績が伸びませんが、目標を持って勉強をする生徒は成績が伸びます。それと同じことです。

私は25年前に「環境経営は仕方がないから行っている」という言葉を、よく聞きました。ですが、社長がそういう意識でいる企業は、実際業績も伸びていませんし、取り組み方もおざなりです。

 

私は年間売り上げが数千億円から一兆円以上の東京にある大企業の経営者とこれまで多くのコミュニケーションを取ってきました。環境経営や、その後のCSR経営、持続可能経営をされている企業というのは、緩やかに導入していくのではなく、一気に変わる瞬間があります。その時に、なぜそうなるのかを調べてみたのですが、答えは社長でした。

 

例えば日本で最大規模の化学工業の企業では元々環境経営を行っていましたが、社長交代のタイミングで環境経営の水準を一気に高めました。

そこで聞いのが、元々社長が大学在学中にボート部に所属しており、練習の時に川の水を誤って飲んでしまうと、お腹を壊すことが度々あったというお話です。

その時に抱いていたのが「世界を代表する東京という都市が、こんな状況であっていいのか」という疑問です。この社長の原体験があったからこそ、「環境で際立つ」と社内に号令をかけ、環境に関わることを事業化して社員が真剣に取り組めるようにした。

 

環境に取り組んでも儲からないかもしれませんが、これはやらなくてはいけないことです。そのせめぎあいの中で、企業が環境経営を「やる」という瞬間。それが決まるのが「社長の意識」というわけです。

 

トップの意識があれば、その企業で環境経営は成功する可能性が高くなりますし、その意識がなければ環境経営は失敗する可能性が高くなります。環境経営に、建前は通用しないということです。

 

――環境に対しての意識がない社長に対して、改善してもらう方法はありますか?

一般的には、法規制をかけない限りは動かない企業は多いと思います。

それでも意識が変わるポイントはあります。SDGsがブランド化されているので、そのブランドを共有する方法があります。

SDGsの考え方に賛同する人たちの集団を作り、企業の実質的な業務で繋がっていくということがベストだと思います。ただ業務だけで繋がるのは難しいので、初めは全く別のつながり方でいいかもしれません。

例えば私の家の近くでも行われていますが、行政、企業と市民が一緒になって、プラスチックを使わない、利用した場合はリサイクルをする社会実験を行っています。これはSDGsの目標14のブルーの部分、海の環境保全に対して参加できるということです。業務には関係がなくても、SDGsへの貢献はできます。

 

こうした活動で、地域の人たちや他の業種の人たちとつながりができたり、自社内でも他の部署の人とつながれます。プラスチックに関する取り組みをしているうちに、なぜこんなことが起きているのかを考え、次は何をしようかと考えることができます。そういう気付きや考えが、SDGsの一歩です。

 

またSDGs貢献をしていれば、他の企業と名刺交換をした時にSDGsの話になり、輪が広がるかもしれません。事業をSDGsにつなげることは大企業でも苦労していますので、中小企業でその輪を作ることができれば、それだけで十分にすごいと私は思います。

 

他にも行政が推進しているSDGsもあります。行政と民間企業とのビジネスの繋がりは難しいため、SDGsを突破口に繋がろうと考える企業もいます。富山でもSDGsの会を開いた時に、富山県内の名だたる企業がやってきました。そこにビジネスチャンスがあると思ったから来られたのだと思います。

 

ただ今はもう東京の大企業ではSDGsの話はあまりしていません。していて当たり前の時代だからです。現在はESG経営をどうしていくのか、必死に考えている段階。大企業はSDGsをしなければ、ESG経営をしなければ企業にとってデメリットどころか、企業の存続が危うくなる。一方で中小企業は、まだそこまでではありませんが、SDGsは国際的な枠組みなので、その中に入ることで得られるものも多いと思います。

 

―― 書籍/活動紹介 ――

  • みんなでつくろう!サステナブルな社会未来へつなぐSDGs 1環境

    みんなでつくろう!サステナブルな社会
    未来へつなぐSDGs 1環境

    九里 徳泰 監修

  • みんなでつくろう!サステナブルな社会未来へつなぐSDGs 2社会

    みんなでつくろう!サステナブルな社会
    未来へつなぐSDGs 2社会

    九里 徳泰 監修

  • みんなでつくろう!サステナブルな社会未来へつなぐSDGs 3経済

    みんなでつくろう!サステナブルな社会
    未来へつなぐSDGs 3経済

    九里 徳泰 監修

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