
ゼロエミッション船の実現に向けて──海運業界のいま、そして未来を語る。ワールド・オーシャン・サミット総力特集第4弾
2025年3月12〜13日に開催された、世界の海洋課題を議論する国際会議「第12回ワールド・オーシャン・サミット」。本特集は、その模様を多角的にお届けするレポートシリーズの第4弾です。
脱炭素社会の実現に向け、海運業界にも変革の波が押し寄せています。ゼロエミッション船の普及は本当に可能なのでしょうか。
本記事では、政策・技術・資金・インフラといった多角的な視点からこの問いに迫るパネルディスカッション「ゼロエミッション船の実現に向けた機運醸成」の模様をお届けします。
ワールド・オーシャン・サミットとは
ワールド・オーシャン・サミットは、持続可能は海洋経済に向けた行動を起こすことを目的に、世界中の政策立案者、ビジネスリーダー、科学者、NGO、技術開発者、投資家などが集結し、海洋環境を保護しながらも経済的に発展させる方法について議論する場です。

「ゼロエミッション船の実現に向けた機運醸成」の概要
国際海事機関(IMO)が発表した最新の温室効果ガス戦略は、船舶を多数保有する国々が脱炭素に向けてより野心的に取り組むことを示しています。
しかし、これは業界のゼロエミッション燃料への大規模な移行促進に十分でしょうか?船舶会社、投資家、インフラ開発者は、どの代替燃料と推進技術に投資するかをどのように決定すべきでしょうか?代替燃料は必要な量だけ入手できるのでしょうか?
■司会
・ノア・スナイダー氏 ザ・エコノミスト 東アジア支局長
■パネリスト
・ヨハンナ・クリステンセン氏 グローバル海事フォーラム最高経営責任者
・渡邉達郎氏 商船三井 執行役員 チーフ・サステナビリティ・オフィサー※
(※取材当時、現 同社 常務執行役員 欧州・アフリカ地域 担当)
・アリソン・ブラウン氏 ハイ・アンビション・クライメート・コレクティブ最高経営責任者
・青沼裕氏 JPNH2YDRO代表取締役 CMB.TECH代表

カギを握るのは政策面?
ノア・スナイダー氏(ザ・エコノミスト 東アジア支局長)
では、セッションを始めましょう。テーマは「ゼロエミッション船の実現に向けた機運醸成」です。ここでは海運産業が持続可能な海洋経済にどのように貢献できるかを議論します。世界各地・各分野から4人の素晴らしいスピーカーをお招きしています。
まずは順番に、今朝のセッションを踏まえて、海運業界の視点から見た「海洋システム」について、それぞれの考えをお聞かせください。
ゼロエミッションの実現に向け、最大の課題は何だと考えていますか?実務的な問題でしょうか?資金面でしょうか?それとも規制上の課題でしょうか?どこに一番大きな障壁があると見ているか、そしてその解決策はどのようなものが考えられるでしょうか?
アリソン・ブラウン氏(ハイ・アンビション・クライメート・コレクティブ最高経営責任者)
私の考えでは、先に挙がったような「実務・資金・規制」のどれかに単独で大きな課題があるというよりも、それらすべての「連携調整」に問題があると思います。
規制や技術、ファイナンス、ステークホルダー、そして政策立案者や産業界、コミュニティなどが同じ方向を向く必要がありますが、現状ではそれが十分ではありません。
さらに、国際レベルでの動きと、各地域や国、あるいは地方レベルでの取り組みとの間に政策の整合性が必要です。こうした点についての認識を高めることが、目標から実際の行動へ移すうえで有益だと思います。
ノア・スナイダー氏
素晴らしいですね。ヨハンナ・クリステンセンさんはいかがでしょうか?同じく「連携の問題」だとお考えですか?
ヨハンナ・クリステンセン氏(グローバル海事フォーラム最高経営責任者)
もちろん連携と協力は今まさに必要な要素ですが、私は特に政策面が鍵を握っていると思います。現段階で積極的に取り組むべきは政策です。
海運に関する気候排出規制については、現在極めて重要な時期に差し掛かっています。今年、国際海事機関(IMO)で重要な決定が行われる予定です。
これは大きなチャンスであり、これを逃してはいけません。なぜなら、この議論の結果が、海運の脱炭素化へのインセンティブを大きく左右するからです。
つまり、ゼロエミッションへの移行が実現するかどうか、どのくらいのコストをかけて、どのタイミングで、どのスピードで進むかは、このIMOでの決定によって大きく変わります。移行の方向性は既に定まっているとしても、それがスムーズに進むのか、混乱を伴ってコストが高騰するのかは、今年の決定に大きく左右されます。
渡邉達郎氏(商船三井 執行役員 チーフ・サステナビリティ・オフィサー)(取材当時、同社 常務執行役員 欧州・アフリカ地域 担当)
2050年までの海運における脱炭素化ですが、現在のところ従来の化石燃料を「グリーンな新エネルギー」に置き換える取り組みは、想定ほど進んでいないように思います。
当社は燃料転換について大きなコミットメントを掲げていますが、サプライヤープロジェクトの進展がまだ十分とは言えません。ですから、新しいグリーン燃料への投資だけでなく、膨大な追加コストをどのように分担するかという仕組みづくりが必要と考えています。
特に燃料コストの上昇は、最大の課題だと見ています。たとえばグリーンアンモニアでいうと、2030年までに通常燃料の4~6倍のコストになると予想されています。
このようなコストを海運業界が単独で負担することは現実的ではありません。ですから、社会全体、海上輸送の恩恵を受けるすべてのステークホルダーが協力して支えなければならないと考えています。そうしないと、この厳しい局面を乗り越えることはできません。
青沼裕氏(JPNH2YDRO代表取締役 CMB.TECH代表)
皆さん、こんにちは。JPNH2YDROの青沼裕です。私は2つのポイントを強調したいと思います。
1つ目は代替燃料の入手可能性と価格・供給量の問題です。これは非常に大きな課題になっています。
実は当社では、日本国内で水素を使った小型旅客船を運航しています。しかし昨年からここ2年ほどの間に、その船を長崎県の五島列島などでも運航したい場面があったのですが……水素の供給が不十分でした。つまり、まだまだ実用に至るインフラが整っていないのです。
これが1つ目です。2つ目は「時間的制約」の問題です。海運は長期的なビジネスです。もし日本で新造船を発注しても、完成は早くても2028年になります。しかも船舶のライフサイクルは15年、あるいはそれ以上です。つまり、今から動き始めないと、目標達成には間に合わなくなる可能性が高いわけです。

他の交通機関の脱炭素化と連携
ノア・スナイダー氏
ここまでの話を踏まえると、具体的にどういった政策ツールが必要でしょうか。たとえば基準づくり、課税や課徴金、補助金によるインセンティブなど、大規模かつ迅速に導入を促すためにはどうすべきでしょう。
政策立案者や産業界にとって、どのようなツールキットが考えられますか?
ヨハンナ・クリステンセン氏
ありがとうございます。実際のところ、利用可能な手段はすべて使う必要があります。文字どおり「あらゆる手立てを試す」必要があります。
IMOで現在議論されている政策の一例として、世界共通の燃料基準があります。これが十分に厳格であれば、実際にゼロエミッション燃料を使うインセンティブが生まれます。
また、長期的に大規模導入が可能な燃料を促進できるほど厳格である必要があります。一時的なバイオ燃料に留まらず、将来的に海運業界のニーズに応えられる燃料を普及させるような仕組みが必要なのです。
また、課徴金も大きな役割を果たします。
これは、従来燃料とゼロエミッション燃料のコストギャップを埋める機能を持つだけでなく、レヴィから得られる収入をゼロエミッション燃料を使用する事業者の支援に回せますし、公平な移行(Just and Equitable Transition)を実現するための資金にもなります。
つまり、移行が困難な国々を支援する原資にもなるわけです。「壁にスパゲティを投げつける」といった比喩は適切か分かりませんが(笑)、IMOの範囲外でも、各国政府レベルで何らかの支援策が必要だということです。
地域や国レベルで、移行初期段階の直接的な支援があれば、民間の投資を呼び込んで燃料生産を拡大できます。そうすれば海運企業などからの需要も高まり、移行初期に必要な規模とノウハウを得られます。
アリソン・ブラウン氏
実際、多くの港湾がそうした取り組みを進めており、港湾は長期的な視野でビジネスを計画しますから。
渡邉達郎氏
1つ強調したいのは、海運以外の産業も自らの脱炭素化の中で海運からの排出量を考慮するようになっていることです。これが新しい局面をもたらしています。
国際海運における温室効果ガス排出は我々のスコープ1ですが、顧客企業にとってはスコープ3排出(サプライチェーン排出)になります。
脱炭素化に先行して取り組む企業は、これを削減するために海運のグリーン化を求めてくるわけです。
しかし、ここで難しいのは、海運はサプライチェーン全体の排出量から見れば一部分に過ぎないという点です。調達全体を考慮したときのウェイトが小さいため、コストのかかる脱炭素化の価値をどこまで評価してもらえるかが課題になります。
青沼裕氏
カーボンニュートラルポートのような、グリーン化を目指す日本の港湾委員会のメンバーでもありますので、その視点から話すと、日本の港湾でも、こうした設備を整備するのは非常に高額です。
それ以上に大事なのは、毎日使える設備がちゃんと稼働し続け、誰でも簡単に利用できるようにすることです。その意味で、水素のような新しい設備が本当に現時点での最適解なのかは、私自身大きな疑問を持っています。まだ不確定な要素が多いというのが正直な感想です。
ノア・スナイダー氏
結局はインセンティブをどう整合させるかという問題ですね。それも地域や国レベルだけでなく、顧客からサプライヤー、港湾、各企業など、海運業界全体のステークホルダー間で。このように政策枠組みを作っていく上で、どのように考えていらっしゃいますか?
アリソン・ブラウン氏
これは海運のサプライチェーンだけにとどまる話ではありません。港湾の観点で考えてみても、陸上輸送など他の交通手段の脱炭素化とも連携する必要がありますし、すべてが相互に影響し合います。
アメリカでは現在、大規模な水素ハブを全国各地で整備するイニシアチブがあります。この提案の中で海事セクターも関心を示しましたが、他の分野の方が優先度が高いとみなされてしまうケースもあります。
他にも水素を必要とする業界があり、これらのセクターが協力して連携しながら各分野の脱炭素化をどう進めるかを考えないといけません。

なぜ海運は注目度が低いのか
ノア・スナイダー氏
それではそろそろ残り時間もわずかですので、会場の皆さんからのご質問をお受けしたいと思います。ご質問のある方は挙手をお願いします。係がマイクをお持ちします。
会場質問➀
イギリスのプリマス海洋研究所のティム・スミスと申します。このセッションのタイトルは「ゼロエミッション船」ですが、NOxのように他にも重要な排出物の問題がありますよね。
ヨハンナ・クリステンセン氏
そうですね。私が以前手掛けていたキャンペーンでは、大気汚染物質や気候汚染物質の両面から海運を考えていました。
確かに海運業界は大気汚染に大きく寄与しており、とりわけ港湾周辺コミュニティに大きな影響を与えています。ですから、単に燃料を切り替えるだけでなく、包括的に排出物全体を削減する必要があります。
具体的にはLNGは論外ですし、バイオ燃料も環境面で問題が残ります。本当の意味でゼロに近いソリューションへとジャンプする必要があります。
会場質問②
シドニー大学のロンです。いつも不思議なのですが、海運はどうしてこんなに注目度が低いのでしょう?
先月もモデリング関連の会議に参加しましたが、東海岸有数の港であるバークハマーのすぐ近くだというのに、海運が話題に上がりませんでした。
3日間ずっと沖合に貨物船が停泊して動かなかったのに、なぜそれを考慮しないのかと聞いたら、誰も気にしていませんでした。なぜこんなに海運は取り上げられないのでしょうか?
ノア・スナイダー氏
これはむしろジャーナリストである私に投げかけられた質問のような気もしますが(笑)、海運の重要性をどう伝えればいいか、皆さん何かお考えはありますか?
渡邉達郎氏
私もまったく同じジレンマを感じています。コロナ禍の間、みんな航空網の維持を心配していましたが、海運のネットワーク維持については、ほとんど注目されませんでした。同じ問題なのに、誰も気にしなかったのです。
ヨハンナ・クリステンセン氏
海運は長年、「レーダーの下を潜航する」かのように見過ごされてきました。しかしコロナ禍などでサプライチェーンが混乱し、海運が注目される状況に変わりつつあると思います。
ノア・スナイダー氏
ちょうどいいタイミングですので、ここでセッションを締めくくりたいと思います。皆さん、盛大な拍手をお願いいたします。この後の午後のセッションも、引き続きお楽しみください。ありがとうございました。

商船三井の二宮さんへ、単独インタビュー
今回ワールド・オーシャン・サミットに参加している商船三井から、環境・サステナビリティ戦略部長の二宮さんに参加した意義や今後の海運業界の動向などお話を伺いました。
商船三井 環境・サステナビリティ戦略部長※ 二宮浩一郎氏
(※取材当時、現 同社 執行役員)
ーー今回商船三井さんがワールドオーシャンサミットに参加される背景や意義、期待する成果についてお聞かせください。
エコノミストさんとは広報で繋がりがあったのですが、その中でこのサミットを主催しているということでご紹介いただきました。去年は3月にリスボンでサミットが開催され、「そちらにご参加してはいかがですか?」とお声がけいただいたのがきっかけでした。
去年そのサミットに社長の橋本が参加し、パネルとして少しお話させていただきました。自分も同行したのですが、様々なNGOや研究機関が海洋課題を解決しようと取り組んでいることを目の当たりにしました。
今年は東京で開催されるということでしたが、商船三井全体として様々な取り組みに関してより深く学ばせていただく機会として参加しました。また、願わくば企業としてもそういった取り組みを応援したり、もっと見えるように世の中に対して一緒にアピールしたりできる点が期待するところです。
ーー国際海事機関がより厳格な温室効果ガス削減を求める中、商船三井はどのように対応を進めようと考えているのでしょうか。
商船三井は業界の中でも先駆けて、2050年にはネットゼロにしますと宣言しました。一方で、企業の努力や善意のみでは限界があり、1番の限界はコストだと考えています。
そこで、いつまでも化石燃料の重油を使う船は、それなりにコストを払ったり、一方で、環境に良い燃料を頑張って使う会社に対してはサポートするなど、IMOの中でそういったパッケージの規制が導入されると、会社としては動きやすくなります。
2025年の4月に開催されるIMOの会議がうまくいけば、かなり変化を促してくれるルールが入るのではないかという状況なので、議論の進展を期待しています。こういった国際機関でのルール作りではいろんな国の意見があり、議論を重ね、ルールも明確にしなくてはならないので、3年や5年越しのすごく時間のかかる議論なんですが、企業としても実際に船を動かしている立場からの意見や情報を提供するなど、こういったプロセスを支援しております。
ーーゼロエミッション船の推進に向けて、商船三井としてはどのような燃料・推進技術に注目して投資の判断を行なっていますか?
目先でゼロエミッション燃料に近いのはバイオディーゼルでしょうか。これを実際に船で使えるのかというトライアルからはじめています。ただ、バイオ燃料に関しては供給量に限界があります。
食べ物、残り物、植物などを全部うまく使ったとしても、航空業界もバイオ燃料を必要としている中で、船業界全体をバイオ燃料でまかなうことは現実的ではありません。
水素を何かしらの形で使った燃料やアンモニア、メタノール、メタンなども燃料の候補にあります。現在は、エンジンや燃料の研究の他、航海するにはいくら費用がかかるのか、どういう場所でどれぐらいの量が必要か、いつから作られるのか、そういったことを話し合っています。
ただ、新しい燃料はとても高いようです。普通の燃料の4倍とか5倍とか。だからそれを商船三井だけが使うと、コストが高くなってしまい長続きしないため、顧客の皆さんも含めてどのように連携していくかという観点が重要です。先ほどの規制の話も関係し、例えば代替燃料を使った場合はサポートされ、使わない場合には課金されるなど。
ーー新たな代替燃料も大量に調達できるようになれば、コストも下がるのでしょうか。
ある程度それはあると思います。量産効果ですね。
ーー安定供給しているところまでは時間がかかりそうですね。
ガソリンスタンドは日本中にありますよね。だけど水素ステーションは?これが大量に行きわたるには、水素で走る車が日本中で売れる必要がありますが、それと同じ話です。今はまだ、そういった燃料を使う船を商船三井が 800 隻作るのか?商船三井だけでなく、世の中の船会社の多くが新しい燃料船を作っていくのか?動かしていくには?という状態です。
そこの安心感がないと、作る方も投資できないですね。鶏と卵のようにどっちが先かというのも、悩ましいと思います。
あとはやはりインフラが整っている燃料と整っていない燃料があり、LNGについてはすでに地域によっては普通に使われているので、それほどハードルは高くありません。一方で、アンモニアを東京湾の船が使いたいですと言ったら、今は誰がどうやってそれを用意するんだ、というところから始めなくてはならず、それが世界中で起こらないといけない。
大きな船が数多くある港では少しずつ着手されています。例えば、シンガポールと東京の間で燃料供給体制も整え、船も作り、まずそこからやりましょうといったことから進められています。それをグリーンコリドー(緑の回廊)と言います。グリーンコリドーの取り組みはいくつか始まっていて、両端の国の政府、港、燃料を作る人、船を動かすこと、ルールを作る人、そういった人たちが一緒になって、どうやったらできるかなとか、いくらかかるか、というのを検討しており、商船三井も参加しています。
一方で、いろいろ研究は進んでいますが、「いくらかかるの?」という点で先程の話に戻ってしまいます。もし IMOでの議論が進み、そういう燃料がむしろ儲かるのであれば、というのは都合が良すぎますが、そんなにハンデじゃないですね、となると投資判断ができます。

ゼロエミ燃料、風力を利用
ーー現段階ではコストの問題が大きいのですね。
大きいですね。船のエンジンを新しい燃料が焚けるように、設計を変えて設備も追加してということもコストはかかるのですが、そのコストよりも、その後ずっとその高い燃料を焚き続けるコストの方がはるかに高い。
技術的なエンジンのコストを下げるとか、あとはそれが安全なものになるのかというのはもちろん大事なのですが、動かしている間ずっと払わなくてはならない燃料代をどうにかしなくてはいけない。
一方、無料のゼロエミ燃料というのがあります。風力なんですけど、船を風で動かすというのは4000年ぐらい前からやっていますが、改めて巨大な貨物船にも巨大な帆をつけるということに、いま真面目に取り組んでいます。
実際に、我々は「ウインドチャレンジャー」と呼ばれる風力補助推進システムも開発し、現在2隻が就航しています。このシステムは上下で畳める帆で、回転して風向きによってちょうどいいように、角度を変えて推力にしています。巨大な船まるまるは動かせないのですが、燃料をセーブできるため、大きな船に1本立てて、大体5%から8%くらい燃料消費量を減らせています。燃料代を減らせて、CO₂排出も減るので一石二鳥です。
現在は製造コストが高いのですが、量産したら安くなるため「頑張って量産しようよ」という話も社内であがっています。
ーー商船三井は2030年までにLNG燃料船を90隻投入予定とのことですが、LNG燃料船が果たす役割や、今後の展望についてお聞かせください。
LNGはゼロエミッションではないですが、CO ₂排出は重油に比べれば20~ 25% くらいは減ります。
当面、大量に使える燃料としたらLNGが候補に上がります。隻数も増やしており、燃料代もそこまで高くないため追い風になっています。2030年までに 90 隻を目指して頑張っていますし、それ以降もしばらくは現実的でよりエコな燃料という点では、大事な役割を果たしています。
ただ、ゼロエミッションにはならないので、ずっとそのままというわけにもいかず、最初に申し上げた合成メタンや、バイオクリーンメタン等を、そのまま同じLNG船の同じエンジンで使っていくことになります。
合成メタンは回収されたCO₂で作られたりもします。工場で出たCO₂を扱って燃料を作るためリサイクルなんですね。カーボンリサイクルで作ったメタン燃料を作り、それを LNG燃料船の同じエンジンで焚けばゼロエミッションに近づくかなといったことも考えています。
2030年代の後半辺りになると技術的にも、コスト的にも可能になってくるんじゃないかなと考えていますが、商船三井が燃料を作っているわけではないため、化学品会社さんや燃料会社さん、エネルギー会社さんとお話しながら進めていく必要があります。
ーー最後になるのですが、海運業界の脱炭素化を進めるうえで、行政・投資家・インフラ開発者などの多様なステークホルダーとの連携が必要不可欠です。商船三井としては、こうしたステークホルダーとの協力関係をどのように築き、今後どのように連携を強化していこうと考えていますか?
一緒にやりましょうという形で、協業を始めているパートナーが増えています。それは「商船三井がそういう燃料を買いますよ」というオフテイカーという言い方をしますが、潜在的なオフテイカーという認識がだいぶ浸透してきているためです。
「うちは使いますよ」「ちゃんと使いますよ」「だから安心して作ってください」と伝える部分が我 々 の役割かなと思います。
■前回までの記事はこちら
ワールド・オーシャン・サミットが日本で初開催!パネルディスカッション「海洋汚染ゼロへの長い道のり」をレポート – SDGs特集記事|リンクウィズSDGs
汚染、騒音、海洋動物との衝突――海運業界の「負の影響」を減らすには?ワールド・オーシャン・サミット総力特集第2弾 – SDGs特集記事|リンクウィズSDGs
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