2023年イスラエル大規模地上侵攻前の「ガザ地区」を描いた作品を鑑賞し議論―「第3回SDGsシネマアワー」
2023年12月6日(水)に映画作品「ガザ 素顔の日常」を上映し、ディスカッションを行う「第3回 SDGsシネマアワー」が開催されました。
「戦争」とは人びとの生活基盤を壊し、SDGsどころではなくしてしまう、SDGsとは正反対の行いです。
映画のフィルムを通して、「ガザ地区」で人びとはどのような生活を行ってきたのか。イスラエルの大規模地上侵攻で今も攻撃にさらされているガザ地区の状況に、私たちは何ができるのか――SDGsシネマアワーを通じて活発な議論が行われました。
「SDGsシネマアワー」とは、SDGsに通じるテーマを持った映画を鑑賞し、社会課題をもっと身近に感じてもらい、参加者同士のつながりをつくる場を提供したいという思いで行われているシリーズイベントです。
ADVANCEシネマ(社会保険労務士法人アドバンス)主催、株式会社ホンプロが運営しています。
株式会社ホンプロとは
社会保険労務士・行政書士を中心とした専門職集団として企業の経営課題と真摯に向き合い、真の課題解決に取り組んでいる『社会保険労務士法人アドバンス』のグループ会社。
社労士という枠組みを越え、理念を同じくする専門家・ベンダー企業と「働き方の未来を創る」をテーマに、ワーケーション推進事業やバックオフィスDX推進事業など、様々なアイディアや企画を実現している。
「イスラム」と一言では括れない
多様性に満ちた人々
第3回SDGsシネマアワーで上映されたのは「ガザ 素顔の日常」。
イスラエルによって2023年12月現在も大規模地上侵攻が行われている「ガザ地区」の、侵攻前の日常を映し出したドキュメンタリー作品(ガリー・キーン、アンドリュー・マコーネル監督、配給:ユナイテッドピープル)です。
本作品では、遠く日本にいる私たちにとって想像を絶する「日常」が繰り広げられていました。
まずは以下の上映中の写真をご覧ください。違和感にお気づきでしょうか。
そう、イスラムの女性の多くが着用する「ヒジャブ」を着けていません。
作品の中でも言及されていますが、ヒジャブは義務や強制ではなく、着用は個人の自由とされていて、作中でも着用している女性もいれば、着用していない女性もいます。
パレスチナ問題はしばしば「イスラエルvsイスラム」という構図で語られることもありますが、パレスチナのイスラム教徒の中でも多様性があり、「イスラム」と一言では括れない現状がフィルムを通じて描かれていました。
チェロを弾く少女、漁師、急行する救急車。「天井のない監獄」と言われるガザの日常
ガザ地区に住む子どもたち、チェロを習う少女。
「家族が餓えず、子どもが学校に行ければいい」ささやかな願いを口にする、90年代半ばからガザに住む男性。
「食べ物も、水も電気も満足にない中、人々の娯楽はこれぐらいしかない」ビーチで海水浴やサーフィンをする人々と、それを見守るライフセーバー。
「ああ、また電気が止まった」ミシンで縫製を行う縫製所の2人。
モデルを目指す若い女性たち。
イスラエル軍に石を投げている若者たちがいると聞きつけ、急行する救急車。
信念を歌う車椅子のラッパー、娯楽の少ないガザで演劇を行う舞台役者。
「生きたいんです」漁の海域をイスラエル軍に厳しく規制され、小さい魚しか捕れない漁師、その魚を食べる子どもたち。
「ガザ 素顔の日常」では、ガザ地区に住む人々のリアルな姿が描かれ、インタビュー等を通じて掘り下げられています。
狭い区域に密集し、ライフラインが限られ、死と隣り合わせの困難な状況にある人々。
彼らは「生きる」ことを渇望し、しかし移動の自由もなく「天井のない監獄」の中であがいている――。
映画は、抽象的なニュース記事ではなく、彼らの普段の営みや願いを映し出していました。
参加者は皆、息を呑んでこの映画を見入り、ガザの現実を目の当たりにしていました。
私たちには何ができるのか――ユナイテッドピープルの関根さんによるアフタートーク
上映後は、この映画を配給しているユナイテッドピープル株式会社の関根健次さんのアフタートークが行われました。
ガザ地区では、経済封鎖により水や食料の不足が深刻化しており、燃料不足による医療機器の停止や医薬品不足が悪化しています。
関根さんは、「逃げられない閉じ込められた状態」と表現し、状況の深刻さを強調しました。WHOの警告によれば、感染症が空爆よりも多くの犠牲者を出す可能性があると指摘されています。
燃料不足により病院の機能が鈍り、安全な出産の場所もない中、約5.5万人の妊婦が孤立しています。
関根さんは、「あと何人亡くなれば、誰が真剣にこの悲惨な状況を止めてくれるのか」と厳しい現実を問いかけました。
彼は、国際社会に向けて「命を救うこと」「この戦争を止めること」を呼びかけ、以下の3つのアクションを提案しています。
①世論を高めるための国内アプローチ
地元の国会議員に有権者として人道的に停戦を求めるメッセージを伝えること。
②署名活動に参加すること
国際社会に世論を伝える署名活動に参加すること。
具体的には、関根さんが理事を務めるPEACE DAY財団では、(1)双方による無差別攻撃の停止、(2)人道的な物資の運搬、(3)恒久的な停戦と平和のための国際会議を設置――を求める署名活動を行っています。
③緊急支援活動への寄付
パレスチナを支援する活動への寄付を行うこと。
具体的には、「パレスチナ子どものキャンペーン」「日本国際ボランティアセンター」など、関根氏が信頼するNGOに寄付を行うことで、緊急支援活動をサポートすることができます。
関根さんは、遠い日本からできることは少ないかもしれないが、国際社会の一員として善意ある行動が必要であると訴えています。
参加者同士で活発な意見交換
最後に参加者同士でディスカッションを行いました。
――一番印象に残ったシーンはどこでしたか?
「僕が残っていたのは、『パレスチナ人以外に怒りを覚える』という言葉です。自分たちより恵まれた人たちが、自分たちはこんなに理不尽を受けているのに、パレスチナ人以外は理不尽を受けていない。そこに怒りを覚えているのかなと」
「パレスチナ人であるがゆえに、なんでこんな理不尽なことを受けなければいけないのかという…。僕は、最後に女性が『兵士になろうと思っていたけれども、戦いだけが解決じゃないと分かって、やれなくなった』というセリフが印象に残りました。苦しんでいる市民がいるのに、なんでハマスが無茶をやるのかなというところが不思議に思えた」
「中盤、石を投げているシーンがあり印象に残りました。当たるか分からない石を投げることで狙撃され、脚が無くなるかもしれない。明らかに割に合わないことをやっている。そこが日本人の感覚からすると想像がつきませんでした。割に合わないというのを度外視した行動が、普通に起こってしまう状況が印象的でした」
「感情を抑えられない。理性で損得を考えていない状況となっているということですね……」
映画を通じてガザのリアルな姿に触れ、彼らの生活や抱える課題について深く考えさせられた参加者たちは、今世界で起こっている残酷な現実を考える契機となりました。
イベント終了後も、パレスチナ情勢について詳しいユナイテッドピープルの関根さんへの質問が後を絶たず、関心の高まりが伺えました。
次回のSDGsシネマアワーのテーマは「プラスチックの海」。
詳細が決まり次第、Link with SDGsでもお知らせしますので、ぜひ福岡近郊の方はご参加ください。
―― 書籍/活動紹介 ――
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