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これからのフェアトレード。日本で普及・浸透するには何が必要? – 坂田 裕輔先生 SDGs特集記事|リンクウィズSDGs
これからのフェアトレード。日本で普及・浸透するには何が必要?

これからのフェアトレード。日本で普及・浸透するには何が必要?

実はSDGsができる何十年も前から始まっていたフェアトレード。最近はSDGsもあって、ようやく話に出てくるようになりましたが、まだまだ普及しているとは言い難い状況です。
そこで今回はフェアトレードを研究し、コーヒーショップと共にフェアトレード商品も共同開発されている近畿大学の坂田先生に、日本でもっと普及・浸透するには何が必要なのかをお伺いしました。

【Profile】坂田 裕輔(さかた ゆうすけ)先生

近畿大学 産業理工学部 経営ビジネス学科(福岡キャンパス) 教授/放送大学 客員教授。博士(大阪大学:国際公共政策)。担当科目はサステナビリティ論、地域経済論、フィールドワークなど。その他、環境経済政策学会、国際開発学会などに所属している。現在は居住地を熊本に移し活躍中。

サークル

フェアトレードに興味を持ったきっかけ

――坂田先生がフェアトレードに興味を持ったきっかけは何ですか?

福岡にウインドファーム(https://www.organic-coffee.jp/)という会社があるのですが、そこは昔からフェアトレードを行っていました。
今から20年ほど前に、ウインドファームがエクアドルで活動をしている人たちを日本に招き、その時に僕にも声をかけて下さり、エクアドルの方たちと話す機会を得たことがフェアトレードに関心を持ったきっかけです。

 

エクアドル森林農法を用いたコーヒー農園の風景
写真提供:㈱ウインドファーム

来日されたのは、カルロス・ソリージャさんという方です。
エクアドルの山地で生活をしていた人々の居住地で鉱山開発による立ち退き問題が起こりました。カルロスさんは現地の人々と協力して反対運動をしていました。一般的に、こうした移住や開発には補償金が出ますが、それは一過性のものにすぎません。もらったお金は多くの場合、2、3年で使い果たします。こうした人々は、もともと地域に根付いた仕事、例えば農業、漁業、狩猟などをしていたため、新しい環境で仕事が見つかることは難しく、これまでの暮らしができなくなってしまうことがほとんどです。これは日本でも同じです。

 

  • ウインドファーム代表の中村隆市氏とカルロス・ソリージャ氏
    写真提供:㈱ウインドファーム
  • コーヒー収穫の様子
    写真提供:㈱ウインドファーム

 

カルロスさんはそのことが分かっていたので、山や森を破壊されるぐらいならそこで産業を起こそうと、コーヒーを生産し始めました。それを聞いたウインドファームの人たちは現地を訪ね、そのコーヒー豆を仕入れることになったそうです。

 

僕はそれまで気候変動などグローバルな分野を研究していましたが、世界の潮流に逆らうのは難しいと思っていました。しかしカルロスさんたちは草の根運動で物事を変えてしまい、すごいと思いました。
自分たちの土地は自分たちで守るという姿勢がカッコいいと思い、カルロスさんたちと緩くかかわるようになっていったという経緯があります。

 

その後、大阪の友だちと十三(じゅうそう)にフェアトレード・オーガニックカフェ「カフェスローOSAKA」を作って運営しました。そこではてづくり市をしたり、トークライブや演劇など様々なコンテンツを催して、フェアトレードを知らない人たちが、自然と知ることができる場を作ろうと思ったのがきっかけです。

 

サークル

近畿大学の「おかげさまコーヒー」ができた理由

――フェアトレード商品を共同開発されていると聞きました。これはどういった経緯で始められたのでしょうか?

以前から地域と関わる活動やイベントを行っていました。カフェをする前も、大阪で活動をしている方に頼まれて、月に1度か2度ほど講演をしたり、学生と一緒に地元のカフェで卒業研究の発表会をしたりと、外で活動していたことがあります。
学校内で完結するよりは、地域と交わりたいという気持ちが強くあったからです。

 

近畿大学産業理工学部とよつば珈琲で共同開発した「おかげさまコーヒー」

 

僕の親が自営業だったので、何かを作ることに対して、もともと精神的なハードルがないというのもあります。
そんな中、イベントで福岡県直方市を中心に活動しているよつば珈琲さん(https://www.instagram.com/yotsubacoffeeroaster/)と出会い、共同開発で近畿大学ブランドのコーヒーを作ろうという話になりました。

僕自身がよつば珈琲さんとフェアトレードコーヒーを作るのは簡単にできます。しかしあえて大学も巻き込もうと思ったのは、共同開発の規模が大きくなれば、学生や地域の人の雇用につながるかもしれないという野望があったからです。

 

また共同開発を行なおうと決めた時(今もですけどね)、僕は経営ビジネス学科に在籍していました。
学生たちにいろんなプロジェクトをちょっとずつ携わってもらって、小さくとも成功体験を得て卒業してほしいという思いもありました。

 

だから最初の1年間は、フェアトレードで行おうとは僕からは言わず、学生の方からフェアトレードコーヒーにしたいと言ってくれるのを待っていました。
学生が授業でフェアトレードの話を聞いていても「誰かがやっている遠い話に過ぎない」のですが、「よく考えてみたら自分たちでもできるかもしれない」と、気づいてくれるのを待ったのです。
人から言われてフェアトレードに携わるのと、自分たちからフェアトレードをしたいと言い出すのでは、気持ちの入り方が違いますからね。

 

 

――学生さんは、どういったところでお手伝いされているんでしょうか?

コーヒーのパッケージデザインと、どのようなブレンドにするのかを学生が決めています。ブレンドも「大学に関係がある国のものを使ってみよう」ということで、ペルー、インドネシア、タイなどを実験的にブレンドして、どれが一番おいしいかの研究もしました。

 

「おかげさまコーヒー」試飲会の様子

 

本当はイヤリーブレンドを作って、毎年違う国のコーヒーを販売したいという気持ちもあります。おかげさまコーヒーを見れば、いま大学はどこの国と関係があるのか、誰々先生がどこの国と関係があるのかというのが分かるのも面白いと思っています。

 

サークル

学生と一緒に作るプロジェクトの大変さ

――「おかげさまコーヒー」を作るにあたって、特に大変だったことは何でしょうか?

一番大変だったことは、やはり学生を巻き込んだプロジェクトにしたことです。学部や市から援助をもらう形のため、僕とよつば珈琲さんだけで自由に作ることはできません。
ですが僕としては、学生のためにも地域のためにも必要だと思ったので、この形にしました。

 

例えば学生によっては、コーヒーをそもそも飲んだことがない子もいますし、フェアトレードを知らない子もたくさんいます。
いろんな議論をするうちに年度が変わり、新しい学生が入ってくるとまたイチから説明をするのも大変でした。

 

おかげさまコーヒーはドリップパックで販売していますが、この価格設定も僕が一人で考えるわけにはいかないので学生たちと話し合ったのですが、フェアトレードにするためにはいくらにすべきなのか、ということも議論しました。

 

また通常のドリップパックは7グラムか8グラムなのですが、マグカップサイズで美味しく飲める量となると、12グラムだと思ったので、市販されているものより1.5倍の分量のグラム数に設定しました。そして、フェアトレード商品は材料費が若干高くなるので、販売価格は170円(税込)に落ち着きました。
初めは、1170円だと学生が買えないと言っていたのですが、ある程度高い金額にすることで特別感も出ます。

 

1170円のドリップパックはギフトとしては使いやすい商品です。
例えば学生が、大学でこういうのを作っていると言って親にプレゼントをしたり、大学の関係者が手みやげとして持って行くのには最適だと思っています。

 

コーヒー豆の原産地は、近畿大学が研究や調査でお世話になっている地域のものです。つまり、「おかげさまコーヒー」を購入することで、お世話になっている地域に還元をするという意味も込められています。
コーヒーをたくさん輸入することで、生産地の地域の雇用を増やし、利益の一部で途上国の奨学金を作る。その一連の過程が、学生たちの国際的な学びにもなる、そういったストーリーを作っています。
だからちゃんとしたコスト、ちゃんとした価格をつけようという話を学生たちにもしましたが、色々な思いを込めている商品というのが、作る上で一番大変でしたね。

 

サークル

フェアトレードが日本で普及しない理由

――フェアトレードという言葉は浸透してきているように思いますが、普及しないのはなぜだと思われますか?

普及しないのは当たり前ですが「売れない」からだと思います。売れないものはスーパーで置かれなくなりますし、そうすると目につく場所に商品がないので買う人がさらに減り、普及しないという残念な循環があります。

 

そもそもフェアトレードやオーガニック、動物を大事にするなど、国際貢献の商品は昔から売られていました。しかし、当初は援助という意味合いが強く、品質は二の次という傾向がありました。

そのため、昔から知っている人からすると、フェアトレードの商品は品質が悪いというイメージがついているのではないかと思います。

 

私がフェアトレードのコーヒーのお話をすると、「フェアトレードってまずいでしょ?」と言われることが多くあります。フェアトレードは途上国の生産者と対等な条件で取引しているものですが、当初はコーヒーについて素人に毛が生えた販売者もいたようでした。その頃にフェアトレード珈琲を飲んだ方が技術やノウハウの面で、有名なコーヒーメーカーと比べると味が落ちているように感じてしまったのかも知れません。
現在は関係者の努力の成果でフェアトレードコーヒーも技術力が上がり、味が向上していますが、初めて飲んだコーヒーの印象が消えないのかもしれません。

 

また金額もやや高めになります。日本人は商品のこだわりではなく価格とブランドしか見ない人も多いです。どうしても「知っているブランドのコーヒーを買おう」と思う人が多いのは事実です。

 

また日本人の考え方にも課題が残っています。「良いものだから高くても買う」という価値観を持っている人がどれだけいるのかというと、おそらくまだ少ないのではないでしょうか。

 

サークル

フェアトレード商品を普及させるためには

――日本でフェアトレード商品を普及させるためには何が必要だと思いますか?

そもそも日本は物が安すぎると感じています。フェアトレードだけの問題ではなく、コストに見合ったもの、生産者が幸せに暮らせる価格で販売されているのか、というところに課題があります。
これは日本全体の所得が低いために「価値のあるものを買う余裕が社会にない」点に根本的な問題はあると思います。

 

僕はデンマークに1年間行っていましたが、物価がとても高いところでした。日本の3倍ぐらいです。今は円安ですので、さらに高くなっています。その中であれば、フェアトレードコーヒーは、特に高いとは感じません。
その他の商品との金額の差がわずかになるからです。

デンマークでも確かに激安の商品もありましたが、それは移民などの低所得層が主な対象になるようです。

 

それに比べて日本は、果物でも傷やサイズが変というだけで、規格外として安く売られています。ですがその品質はとても良いものです。この品質で、この価格だと絶対に成り立たないのが、まかり通っている社会ですので、フェアトレードが不利になります。
おそらくいいものを作る人たちは、すでに日本をマーケットとみなしていなくて、アジアの富裕層や欧米を主要なマーケットとして活動しているのではないでしょうか?

 

フェアトレードも同じです。日本で普及をさせなくてはとがんばる前に、世界から置いて行かれてしまう危険性を感じています。

 

 

――一般消費者に普及させるのは難しいということでしょうか?

難しいというか、困難な課題だと思います。

例えば、子どもたちに体感してもらうことからはじめることは有効だと思います。

 

今の小学生は学校でフェアトレードを習います。習った後に、親とスーパーに買い物に行き、そこでフェアトレード商品を見つけて、親と買う買わないの話をすることが大事だと思っています。
そういう経験をすることで、フェアトレード商品を身近に感じられるようになります。大人になって自分で物を買う時に、フェアトレード商品が選択肢に入ってくるはずです。

 

ただ現在は、スーパーに行ってもフェアトレード商品があまり売られていません。
コーヒーなら売られているところもありますが、小学生はコーヒーを飲まないので……。フェアトレードのチョコレートや飴などであれば、小学生も興味があるはずです。仕入れするスーパーが増えればいいなと思っています。

最近は、スーパーでも800円ぐらいのチョコレートが売られているので、その中にフェアトレードのチョコレートがあっても、高いという印象はないはずです。

 

あとはできれば、スーパーに置いているフェアトレード商品にいくつかの種類があってほしいと思っています。
フェアトレード商品とそれ以外ではなく、フェアトレード商品が数種類、フェアトレード商品ではないものが数種類という選択肢があり「買うものが選べる環境」になると、よりフェアトレード商品を買う人が増えるはずです。

 

こういう環境になれば、日本でもフェアトレード商品が売れる、普及する状態になっていくと思います。

 

サークル

「適正な価格」のものを買う意識が大事

――最後に坂田先生は、今後フェアトレードはどうなっていくと思われますか?

「公正取引」委員会も「フェアトレード」と訳します。フェアトレード運動とは、一般の企業同士が正しい取引をしているかどうかを見ていることです。

つまり、公正取引委員会にフェアトレードの価値観も含まれています。

 

日本では、一次産品、工業製品、製造業、農林漁業がありますが、まずはこれらの業種が適正な価格で取引されることを目指す必要があると思っています。

そして、いずれフェアトレードは公正取引委員会の中に取り込まれていく(公正取引委員会の業務の範疇にし、ルール決めとその監視を行っていく)。これが理想です。

 

ヨーロッパでは、フェアトレードラベルやオーガニックラベルが普及しています。そのため「ラベルが貼られているものを選びましょう」という流れになったのですが、日本では違います。
まずは国内外を問わず、安すぎるものなど不公正な取引をなくし、その後で国際的なフェアトレードのものも普及させていくという流れの方が、想像しやすいです。

 

例えば、国内で公平な取引が行われるようになると、生産者の所得が増え、労働者の所得が増えるので、ラベルの付いたものを選ぶ余裕も生まれるのではないかなと思っています。
日本は海外に比べるとフェアトレードの普及がかなり遅いですが、急ぐ必要はありません。
それよりも、「適正価格で販売されているものを購入する意識」を根付かせることが、何よりも大事だと僕は思っています。

 

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