令和の都だざいふ。持続可能な未来へ向けたまちづくり
日本書紀や、元号「令和」の由来となった万葉集にも記載のある歴史ある、太宰府市。大宰府政庁跡など多くの史跡があり、毎年1000万人余りの観光客が訪れる観光都市であり、一方で福岡都市圏のベッドタウンとして住宅開発が進んでいる側面もあります。
太宰府市はLink with SDGs開催の「太宰府SDGsウォーキング」にも後援を頂き、自然あふれ史跡の趣を感じられる道を歩き、SDGsを学ぶ機会が得られ、多くの参加者に喜んで頂きました。
今回、太宰府SDGsウォーキングの舞台となった太宰府市ではどのようなSDGsの取り組みが行われているのか、太宰府市長の楠田大蔵さんにお話を伺います。
【Profile】楠田 大蔵(くすだ だいぞう)さん
福岡県太宰府市長。
2000年東京大学法学部を卒業。現・株式会社三井住友銀行、国家公務員1種試験合格、元内閣総理大臣羽田孜秘書を経て、2003年より衆議院議員3期(28歳初当選)、防衛大臣政務官など歴任。
2018年より太宰府市長就任(現在2期目)。
史跡地の梅を活用した「梅」プロジェクト
――太宰府市では2021年に地場みやげ産業の振興のために令和発祥の都太宰府「梅」プロジェクトを始動していますが、その内容をお聞かせください。
梅といえば、太宰府天満宮の飛梅、市の花であり、元号「令和」の由縁となった万葉集に収載されている「梅花の宴」なんですね。
当時、大宰府の長官であった大伴旅人さんが、この梅の花を愛でながら、最先端の国際シンポジウムとも言える宴を主催しました。
太宰府としては、この「梅」がやはりいちばんの売りとして、まちおこしを行いたいということから始まっています。
しかし、史跡地の梅は文化財保護の観点から、商業利用が制限されていました。そこで太宰府市から国に働きかけ、資源として活用できる規制緩和を勝ち取ったんです。
これを機に、太宰府の梅をブランディングしてスイーツやご当地グルメなどに仕立て、地場みやげ産業として振興しました。
またふるさと納税にもノミネートし、本市の税収効果の向上も図りました。現在までに16事業者が22製品の開発を行い、ふるさと納税の返礼品などに活用しています。
ふるさと納税は当初4,000万円ほどだったものが、今は12億を超えるご寄附をいただいており、非常に税収効果が高まったと自負しています。
――「梅」プロジェクトは、SDGsのどのような部分に貢献しますか?
SDGsの目標11「住み続けられるまちづくりを」と関連し、住み続けられるためには市としても収入を得る必要があり、その取り組みのひとつですね。
また、先般の規制があったため、梅の実が生っても落ちっぱなしになっていた状況でした。それではもったいないし、これが規制の緩和で利用できるようになりました。
他にも梅の花を使った酵母でパンを作り、梅の枝を剪定して陶磁器等の釉薬の原料への利用を検討しています。
このように梅に付加価値を生み、新製品開発につなげる好循環を実用しようとしています。これによってまちが活性化しながら、市民の皆様にも住み続けられるまちとなるよう、取り組みを進めていきたいと考えています。
中学校完全給食の実現
――太宰府市では中学校の完全給食について、楠田市長が実現に向けて踏み出したと伺っています。
完全給食はSDGsの「すべての人に健康と福祉を」などに該当するかと思いますが、実現に至るまでの状況をお聞かせください。
太宰府市の中学校では、昼食は基本的には家庭からの弁当持参で、牛乳を全員に提供する「ミルク給食」を行ってきました。また、2006年12月からは、弁当を持参できない場合のために、民間事業者が提供するランチサービスを導入しています。
しかし完全給食となると、財政の兼ね合いもあるためなかなか難しい状況でありました。これを何とかしなきゃ……という想いが私の中にあって、私の第1期の終わりには基金に5億円の予算の積み立てを行い、第2期の公約に掲げました。
こうして完全給食は2024年1月から実施される予定です。
――やはり、保護者の方からの要望も大きかったのでしょうか。
親御さんなり、子ども達もそうですね。やっぱり中学校でのお昼の給食は貴重な栄養源になるので。
今はお弁当の子もいれば、パンだけを食べている子もいて、食育としても、栄養面でも差がついてしまいます。親御さんが働きながら毎日お弁当を作るのもなかなか大変だと思います。
やはり全員一緒に、同じものを食べる形にするのが良いだろうなと考えました。
――給食は市内の工場から提供されるんですね。
中学校給食調査・研究委員会などを組織し、他の自治体の中学校給食の実施状況や提供方式、費用などを調査しました。
色々な方法が論議される中で、公募型プロポーザルを行い、本市にとって最適な業者を選定するとともに、業者が太宰府市内に新しく工場を設置することで、企業誘致にもつながりました。その工場から給食は提供されます。
財政的にも「梅」プロジェクト製品によるふるさと納税寄附も入るようになり、可能になりました。
でき立てで美味しく安全な給食が提供されるよう、引き続き全力をあげているところです。
太宰府市の中学校は全員喫食での完全給食で2024年(令和6年)1月10日にスタート
市内4中学校に配置している栄養士が献立作成、物資発注を行い、調理は市内の民間調理場にて行い、市内4中学校へ出来立てを配送。また、市内4中学校が同じ献立で、主食は週にごはん4回、パン1回とし、小学校と同様に生徒が食器に注ぎ分ける「食缶方式」で実施される。
ゼロカーボンシティの推進
――太宰府市のゼロカーボンシティの推進についてお聞かせください。
太宰府市では、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目指し、ゼロカーボンシティの実現に取り組んでいます。
具体的な取り組みとして、再生可能エネルギーの導入や省エネルギーの促進、次世代自動車の普及などを支援する補助金制度を継続しています。
ごみの減量や処理費用の削減にも力を入れていて、啓発活動などを通じて市民一人ひとりにも参加してもらっています。さらに、街路灯や公共施設の照明をLED化するなど、消費電力量とCO2排出量を削減しながら明るく安全なまちづくりを進めています。
将来的には、最大限の再生可能エネルギーの導入やエネルギー効率の向上、蓄電池の活用、公共交通機関の充実など、脱炭素社会を実現し、豊かで安心なまちの形成を目指しています。
――2021年の8月に「地球温暖化対策実行計画(第5期)【事務事業編】」を、2023年の3月に「地球温暖化対策実行計画(区域施策編)」を策定されています。この2つを策定された経緯についてお聞かせください。
事務事業編では、太宰府市が率先して地球温暖化の対策に取り組むため、省エネや廃棄物減量などの取り組みを通じて温室効果ガスの排出削減を目指しています。
この計画は、「地球温暖化対策の推進に関する法律」に基づき、地方自治体が事務や事業に関して排出削減の計画を策定することが義務付けられたため、太宰府市も2001年(平成13年)に環境保全実行計画を策定しました。その後、5年ごとに更新し、2021年(令和3年)には改訂版として「太宰府市地球温暖化対策実行計画(第5期)【事務事業編】」を発表しました。
区域施策編については、2021年(令和3年)6月に発出された「太宰府市気候非常事態ゼロカーボンシティ宣言」の中で、太宰府市は良好な環境を将来の世代に引き継ぐために気候変動対策に取り組むことを宣言しました。
区域施策編はこの宣言に基づいて、市民や事業者、団体などと協力しながら地球温暖化対策に取り組むために策定されています。計画期間は2023年度(令和5年度)から2030年度(令和12年度)までの8年間です。
――事務事業編と区域施策編、いずれも関連するSDGsが示されてあります。SDGsの目標達成と、持続可能な未来を目指したものなのでしょうか?
SDGsはご存じのとおり日本国内でも政府をはじめ、企業など取り組みを進めているところです。
本市においても、2020年(令和2年)に策定された太宰府市まち・ひと・しごと創生総合戦略(まちづくりビジョン)で、『令和発祥の都 羽ばたく太宰府』の4つの構想』のひとつとして、『1300年の歴史に思いを致す持続可能な太宰府構想』を掲げており、持続可能なまちづくりを推進しています。
事務事業編、区域施策編にはその関連するSDGsを示し、施策を進めていくことで、SDGsの目標達成に貢献できると考えています。それが、市から県、県から国、日本から世界へつながり、持続可能な未来につながるのだと考えています。
――区域施策編では、計画の位置づけとして「市民、事業者、団体等と協力して地球温暖化対策に取り組むための計画」とあります。この計画において、市民、事業者、団体等はどのような役割を担っているのか、お聞かせください。
SDGsの「パートナーシップで目標達成を目指す」という目標は、自分のことだけを考えるのではなく、みんなが一致団結してパートナーシップを形成し、目標達成に向かっていくことだと考えています。
区域施策編の趣旨もそのとおりで、行政だけ、特定の事業者だけが取り組むのではなく、それぞれ市民、事業者、団体等が、自分たちができる範囲で再生可能エネルギーの導入や省エネ、ごみのリサイクルなどに取り組んでいただき、それを行政としてソフト面、ハード面において支援していくことで、目標を達成できればと考えています。
例えば最近取り組み始めたことで、「一人ひとり ごみ減量プロジェクト」もあります。
ごみを減量するにも、どうしても関心のある人だけになりがちで、やはり一人ひとりが意識しないと変わらない、全員で取り組まないと結果が出ないため、始めました。
未来の太宰府市へ向けて
――楠田市長は、市政を行う上で何を一番大切にされてきましたか? これからの太宰府市についてもお話をお聞かせください。
2023年の1月28日で、太宰府市長に就任してから丸5年の節目を迎えました。
未曽有の混乱からの脱却、元号令和発祥の地としての取組、予期せぬコロナ禍への対応などチャレンジングな事案が次から次へと押し寄せましたが、この間一貫して世の為人の為、市の為市民の為に私の持ちうる力は出し尽くすことを大切にし、実行して来たという事だけは胸を張って言えます。
私が掲げた二期目の公約は「令和の都さらに羽ばたく太宰府~課題解決先進都市を目指して~」です。
これは、まちづくりビジョンの4つの構想と戦略を基に、元号令和発祥の地となった歴史と文化あふれる令和の都、国際観光都市、学問のまちなどの本市が持つ類まれな強みを生かしつつ更なる飛躍を図るとともに、郷土や我が国、世界にも共通する諸課題を先進的に解決していく自治体のリーダー的役割を積極的に果たすというものです。
2022年度(令和4年度)の実績として、悲願である中学校完全給食へ向けてスピーディーに検討や取り組みを重ね、来年1月の開始に向けて引き続き全力をあげているところです。
また、昨年度の市制施行40周年記念を機に、当時の我が国の最先端の国際シンポジウムであったとされる「梅花の宴」を1300年の時空を超え現代に甦らせる「令和文化会議」、「令和の都だざいふ応援大使」の委嘱、次代を担う子どもたちの更なる飛躍を期す「世界に羽ばたく人材育成表彰」や「子ども学生美術展」という新たな取り組みもスタートしました。
2023年度(令和5年度)の予算編成にあたっては、「令和の都さらにはばたくだざいふ」を標榜し、まちづくりビジョンの構想と戦略に基づいたトップダウン型予算という側面と、あらゆる世代や市民ニーズに沿ってこつこつと積み上げたボトムアップ型予算という二つの側面を持った予算を編成しています。
前者はまちづくりビジョンの4つの構想と戦略に5つずつの重点項目を設定し、そのもとに更なる細目重点事業をひもづけました。後者は、市民の皆様の要望を分析・振り分けし、それに基づく事業予算を丁寧に積み上げたものです。
前者の代表的施策がシティプロモーションや史跡の先進的多用途活用であり、後者の代表が中学校の給食や窓口機能の充実です。
今後も二つの側面を組み合わせながら成長戦略と効率的行政を成し遂げ、更なる歳入増と市民ニーズの実現を図ります。
―― 書籍/活動紹介 ――
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