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だれでも通え楽しい学びを地域に。笑い飯哲夫さんの教育にかける想い – 笑い飯・哲夫さん SDGs特集記事|リンクウィズSDGs
だれでも通え楽しい学びを地域に。笑い飯哲夫さんの教育にかける想い

だれでも通え楽しい学びを地域に。笑い飯哲夫さんの教育にかける想い

Link with SDGs編集部

2010年のM-1グランプリ王者、笑い飯の哲夫さんは、大阪市淀川区で一風変わった塾「寺子屋こやや」を経営しています。
小学校1年生から中学校3年生の生徒が集まる「寺子屋こやや」の魅力は、通いやすいリーズナブルな料金設定。そして唯一無二の特徴は、売れる前の大卒の芸人さんたちが先生を担当していることです。おもしろおかしく教えてくれる先生から、子どもたちは勉強の楽しさを学んでいます。
こうした「寺子屋こやや」の活動は、SDGsの目標4「質の高い教育をみんなに」や、その理念である「誰一人取り残さない」につながっているのではないでしょうか。
哲夫さんに「寺子屋こやや」とはどのような塾か、そしてなぜ開校したのか、想いをたっぷり伺いました。

【Profile】笑い飯・哲夫さん

1974年奈良県出身。関西学院大学文学部哲学科卒業。2000年に漫才コンビ「笑い飯」を結成する。9年連続でM-1グランプリ決勝に進出し、2010年に優勝。一方で教育者としても活動しており、2014年に大阪市淀川区で低価格塾「寺子屋こやや」を開校。また仏教の造詣が深いことから、2020年相愛大学人文学部客員教授に就任。

サークル

リーズナブルな塾「寺子屋こやや」が目指す子どもの自主性と想像力の育成

――「寺子屋こやや」はどのような塾ですか?

 講師が子どもたちの前で講義する形ではなく、生徒が宿題やプリントでわからない問題を質問して、先生に教えてもらう個別指導型の塾です。主に学校の勉強の補習をメインにしています。

2014年に大阪市淀川区で開校して、現在は40人ほどの子どもたちが通っています。小学生と中学生は時間帯を分けていますが、さまざまな学年の子どもたちが一緒に勉強しているんですよ。

 

 

多くの子どもが通いやすいように、塾の料金はできるだけリーズナブルに設定しています。小学生は週2回で月5,500円から。中学生はコースによって10,000円~17,000円です。大阪市には小学校56年生と中学生を対象にした塾代助成制度があって、ひと月に上限10,000円の補助が出るんですね。その助成制度を利用した場合、ひと月の自己負担額がおよそ5,000円~7,000円で収まるようにしています。

 

生徒の中には助成対象とならない世帯の子どもも多いですし、「こやや」の理念が好きで、大手塾に通いながら補習のために来てくれる子もいるんですよ。

 

 

――「寺子屋こやや」が大切にしていることはなんでしょうか?

 一つは子どもたちの自主性を育むこと。「こやや」では勉強を教えるというより、勉強の仕方を教えて、自分自身でできるよう指導しています。せっかく塾に来ているので得意な問題ではなく、苦手な問いをまず解いてみて、「わからなかったら自分から聞きや」って伝えています。そうやって子どもたちの自主性を育てるよう、努めているんですよ。

 

もう一つ大切にしているのは、想像力を高めること。これは人にとって一番大事な能力だと思っています。想像力があれば、算数の問題を解くことも、相手の気持ちを思いやることもできますよね。具体的には、休憩時間にクイズを出して取り組んでもらうことで、想像力だけでなく集中力や、合理的な考え方の育成にもつなげています。勉強や学校で教えてもらうことを、すべてクイズとして捉えられたら、きっと学びを好きになると思うんですよね。自由に答えさせると、とんでもないことを言う子もいて、おもしろいですよ。発想力も鍛えられますね。

 

それと、「こやや」に来てくれる子には、親御さんの代わりに育てる、しつけるつもりで接しています。言うなれば地域教育ですかね。

 

 

――「こやや」にたくさんの生徒さんが集まる理由はなんだと思いますか?

 お母さん方の口コミで生徒さんが増えているようですね。質を重視した教育を意識して、教え方も工夫していますし、成績アップや志望校合格といった実績もしっかり出ています。また、大卒の芸人が教えていることも「おもしろいし、わかりやすい」と人気です。

親御さんが働いている家庭では、子どもの居場所の一つとして利用しているケースもあります。お母さんたちから子育ての相談もよく受けますね。過去には、塾を卒業した子の保護者の方から、思春期の息子との接し方について相談を受けたこともありました。

 

サークル

売れる前の芸人さんが教えることで生じる、先生と生徒のWin-Win関係

――「こやや」では、まだ売れる前の芸人さんが先生をされているそうですね。

はい。芸歴215年くらいの、大卒で個性あふれる芸人たちが教えています。子どもたちは、笑かしながら教えてもらえるので勉強が楽しくなっていくんですね。その方が飲み込みも早いようです。

 

 

一方で、芸人にとっても話術を磨く場になっているんですよ。子どもたちは一人ひとり知識や語彙力が違うでしょう? だから一番話を伝えにくいお客さんでもあるんですよね。子どもたちを相手に堅苦しい勉強を教えるには、やはり話し方に魅力がないとなかなか難しい。でも試行錯誤しながら教えていくうちに、トークがどんどんレベルアップしていくんです。そういう意味で、先生と生徒はWin-Winの関係性になっているんですね。

 

生徒とのふれ合いの中で話芸を高めて、芸の仕事で食べていけるようになってね、本業に専念している元先生も多く、僕としてもうれしい限りです。最初の頃は僕も一緒に教えていたんですよ。今は事業を管理する経営者の立場になって、信頼できる後輩に教育現場を任せています。格安塾ですが、講師の方にはもちろん納得いただける報酬をお支払いしています。

 

それと、先生の手が回らないときは、年上の生徒に「ちょっと教えてあげて」って頼むこともあります。それで上級生が下級生に教えてあげたりするんですよ。なかなか今の塾では見られない、良い光景だと思うんです。学年が違う子らがみんなで一緒に勉強してる雰囲気が、僕はすごく好きですね。

サークル

経済事情に関わらず子どもが平等に学べるよう「寺子屋こやや」を開校!

――ところで、なぜ低価格の塾を開こうと思ったのでしょうか?

僕自身が小学生の頃に、月3,000円ぐらいの格安塾に通っていたことが大きいですね。近所のおばあちゃんがやっている塾で、すごく楽しかったんです。休憩時間にお菓子をもらえるし、おばあちゃん独特の柔らかい雰囲気が好きで。近所にこういう地域塾があったら良いな、とその後もずっと思っていました。

僕らが子どもの頃は、こういう地域教育みたいなのがありましたよね。親も学校の先生も仕事で忙しいから、近所の人たちが代わりに遊んでくれたり、叱ってくれたり。そういう日本にもう一度戻らないとあかんちゃうかな、って思っています。

 

それと、僕はとても周りに恵まれて、たくさんの良い先生に出会ってきました。それで大学に進学した頃、「教師になりたい」という気持ちが芽生えたんです。最終的にはお笑いの道に進みましたが、地域教育、おばあちゃん塾と同じような格安の塾をやれたら、という思いは持ち続けていました。

 

 

――ずっと手掛けたかった地域塾を、開校に踏み切ったきっかけは何があったのですか?

10年くらい前に吉本興業の社員さんが、「子どもの塾代が、月に16万円もかかって大変なんです」と話していたんですね。その言葉を聞いたとき、そんなに高いなら一部の子どもしか塾に行かれないやろな、って思ったんです。一般家庭ではなかなか難しいですよね。

僕は小学校の頃は月3,000円、中学では月20,000円の進学塾で学んでいました。塾代が6万円だったら、とても通えなかったでしょう。

 

だからその社員さんの話を聞いたときに、いろいろな所得層の子どもたちが、気軽に利用できる地域塾が必要だなって思ったんです。教育の機会はみんなが平等に与えられるべきですよね。高所得者層だけでなく、あらゆる家庭環境の子どもたちが通える塾を開きたかったんです。でも実は、「こやや」を始めた本当の理由はこれだけではないんですよ。

 

サークル

根っこにあるのは、10代から抱く地球環境への強い危機感

――教育に関心を持ったきっかけは何ですか?

おおもとは、地球環境を良くしたい、という想いです。中学生の頃、テレビで「地球温暖化」という言葉を初めて聞きました。そのとき、二酸化炭素が温室効果ガスだと知ったんです。その番組では、このままだと将来は巨大台風が頻発して、地球のあちこちに砂漠が増えて、農作物もだんだん育たなくなる、みたいな未来を映していたんですね。洪水で家が押し流されたり、富士山の頂上まで木が生えたり、といったショッキングな映像が次々と流れて、ひどく恐怖を感じました。

それ以来、環境問題が僕の中で大きなテーマになりました。本を読み漁っていろいろ調べるうちに、「地球をきれいなまま子孫に残さなあかん」という意識になったんです。

 

僕が思うのは、SDGsは「持続可能な開発目標」という意味ですが、「持続できる」だけでは、地球環境は良くならないということ。たとえば夏の暑さを考えても、僕らが小学生だったときよりも、今の方がずっと暑い。近年の猛暑は異常ですよね。

だから、健康な地球を子孫に残すために「現在の状態の維持」じゃなくて、僕が子どもだった頃の夏の気温に戻したいんです。一番良いのは産業革命以前の地球に戻ってもらうことなんですよね。

 

――環境への危機感が、「寺子屋こやや」の開校につながったのですか?

そうです。地球を治療するには、革新的な科学技術を開発してくれる人材が必要です。たとえば、CO2を資源と酸素に変えるテクノロジーを発明するとか。温暖化への影響(温室効果)がCO225倍もあるメタンガスも、どうにかしなきゃあかんのです。

僕らの世代では無理かもしれないけど、これからの世代で成し遂げてくれる人たちが出てくると思うんです。そのためには子どもたちに投資して、優秀な人材を育成することがとても大切。だから「置いてけぼり」をつくらずに、全体的に子どもたちの能力を高めていく必要があります。「寺子屋こやや」を開いたのは、地球環境を良くするために、すべての所得層の子どもが質の良い教育を受けられるように、という想いからでした。

 

サークル

描くビジョンは「こやや」の全国展開と、公教育へ関わっていくこと

――塾を開いた理由を教えていただきましたが、今後はどのような展望をもっていらっしゃいますか。

 「こやや」をもっとたくさんの地域に増やしていきたいですね。遠いところから自転車で通ってくれる子どもも多いので、「そんなに遠くまで来んでいいよ」って言ってあげたい。今考えているのは、「こやや」事業を全国に拡大して、さまざまな事情をもつ子どもたちが平等に学べる場所をつくることです。

 

ありがたいことに、こうしてメディアで取り上げてもらうことで「一緒に何かしたい」というご連絡をもらえるようになりました。お寺の空いているスペースで「こやや」をやってくれないか、というお話もいただいています。本来の寺子屋に戻ったようで良いですよね(笑)

全国の子どもたちのために、「寺子屋こやや」を運営するスペースを格安で貸してもらえたら、すごくうれしいです。

 

――「こやや」以外で教育に関して行いたいことはありますか?

大それたことで恥ずかしいんですけど、学校や地域の垣根を越えて、教育者や先生方がディスカッションできる場をつくりたいんです。「このテーマを教えるときは、私はこういう伝え方をしています」というように、自由に話し合える機会ですね。何でもそうですが、知識は「パクリ合う」ことが一番大事だと思うんで、教育者同士で指導の仕方などを共有できる制度を設けることができたら、と考えています。

 

――民間の塾だけでなく、公教育に関わることも考えていらっしゃるのですね。

そうですね。僕が理想と考えているのは「文部省」が単体の機関になることです。現在の文部科学省は、2001年に文部省と科学技術庁が統合してできたんですね。でも、子どもの教育と科学技術を一緒に扱うのではなく、未来の人材の育成を専門に考える部署がいるんじゃないかなって、思うんですよ。

文部省が独立して今よりもっと教育に力を入れたら、子どもたち全体を「かしこ(※1)」にできるんじゃないでしょうか。そうしたら地球を冷却、ないし産業革命以前の住みよい環境に戻してくれる技術を開発する子が、出てくるかもしれません。だから僕らがしてもらったように、今の大人が子どもたちのために、教育について必死こいて考えていくことが大切だと思っています。

※1 かしこ……関西弁で“賢い”という意味

 

サークル

インタビューを終えて

「寺子屋こやや」についての哲夫さんのお話は、教育や経済格差の問題以外にも、さまざまな部分でSDGsに大きく関わっていると思いました。

たとえば、哲夫さんが塾を始めるおおもとの理由となった地球温暖化の問題は、「気候変動に具体的な対策を」に関連しています。教育を発端として地球を治療するテクノロジーの話は「産業と技術革新の基盤を作ろう」に。また、売れる前の芸人さんが先生として働いて、やりがいある職や賃金を得て、本業に役立つ話術を磨くというシステムは、「働きがいも経済成長も」に貢献しているでしょう。

哲夫さんが力を注ぐ「だれでも通いやすい塾を経営する」という一つの活動が、いくつものSDGsの問題やその改善につながっているのは、とても興味深いと感じました。

 

―― 書籍/活動紹介 ――

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