「地球のこと、海洋生態系を考える」ナショナル ジオグラフィックのアースデイイベントをレポート
4月22日はアースデイ、地球のことを考えて行動する日として各地でイベントが開催されました。
そうした中でウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社が運営するナショナル ジオグラフィック(ナショジオ)は、4月22日と4月23日に「アースデイ WITH ナショナル ジオグラフィック OCEANS TOMORROW」と題した体験イベントを、横浜の象の鼻テラス・象の鼻パークで行なっています。
潮風と共に海を知り、感じ、学ぶイベントからは、海洋生態系に関する貴重な示唆が得られました。このレポートでは、イベントの注目ポイントをご紹介します。
ディズニー・プラネット・ポッシブル
ディズニーがグローバルに行うサステナブルな取り組みのひとつが「ディズニー・プラネット・ポッシブル」。「地球の物語を変えるために行動を起こそう」として、環境フットプリントの削減や野生動物とその生息地の保全など、より明るく持続可能な未来のために活動を続けています。
『アースデイ WITH ナショナル ジオグラフィック OCEANS TOMORROW』は、この「ディズニー・プラネット・ポッシブル」の取り組みのひとつとして行われました。
紙芝居など親子向けのワークショップを開催
4月22日、23日ともにアップサイクルな活動を広報・応援・支援を行っているUPCYCLE JAPAN®によるワークショップが開催されました。
“豊かな森林が海を守る”紙芝居
UPCYCLE JAPAN®手作りの紙芝居が行われました。
「山が元気がない」そんな場面から始まり、森からの栄養が海に流れなくなりウニが海藻を食べすぎて、ウニばかりになるなど、森と海がつながっていることを知り、地球環境を考える学びの場となりました。
冒頭でUPCYCLE JAPAN®が木を切っていることを話すと子供たちは「木を切るのは悪いことじゃないの?」という素朴な疑問も。木を切ることで森が健全に保ち、その木材で様々な製品をつくる「アップサイクル」について、子供たちにも分かりやすい説明がされていました。
“海の豊かさを守る”洗剤ワークショップ
はじめに洗剤が汚れを落とす仕組みや、洗剤にはどのような成分が含まれているのか、合成界面活性剤の影響について説明があり、洗剤を使わずにどれだけ汚れが落ちるのか、実際に体験できるワークショップが行われました。
洗剤以外の材料としては、ホタテパウダーや重曹、米のとぎ汁、パスタの茹で汁が使われ、汚れの落ち方について体験。「泡立つからといって汚れが落ちるわけではないよ」と、子供たちは今まで知らなかったことを身をもって学ぶことができました。
その他、海洋プラスチックを使ったキーホルダー作りなども行われ、どのワークショップもほぼ満員。親子ともに環境への意識やアップサイクルへの関心が高いことが伺えました。
ナショジオ映像コンテンツも大盛況
当日は「バーティのハイテク・アドベンチャー」など、ナショナル ジオグラフィックの人気番組も放映。この日はバーティ・グレゴリー氏が初来日することもあり、映像の放映中はほぼ満席の状態に。
ワイルドライフ フィルム(野生動物の生態や自然環境を映像化した映像作品)への関心が高いことが伺える盛況ぶりでした。
復活を遂げたクジラの群れをフィルムに――
バーティ・グレゴリー氏トークセッション
バーティ・グレゴリー氏のトークセッションでは、野生動物の驚異的な映像の舞台裏や、世界を旅する中で見えてきた海の現状について語られました。
バーティ氏は約10年間をかけて野生動物を追いかけ、ドローンによるクジラの群れの撮影など高度な技術を駆使し、誰も見たことのないような映像を撮り続けるワイルドライフ フィルムメーカー。
例えばBryde’s whale(ニタリクジラ)は海中に垂直に沈み、大きな口を開けて魚を待ち受けて捕食する「トラップ・フィーディング」と呼ばれる独特な食事を行いますが、バーティ氏はタイ湾でこのトラップ・フィーディングをドローンで上空からフィルムに収めることに成功。
バーティ氏の番組の英題「Epic Adventures with Bertie Gregory」は、邦題「バーティのハイテク・アドベンチャー」としてディズニープラスのナショナル ジオグラフィックで配信中。「ハイテク・アドベンチャー」とは、野生生物の生態を高度な撮影技術でかつてないダイナミックな映像をもって制作されていることに由来し、トークセッションでもこのことについて語られていました。
バーティ氏は「私の仕事は、動物たちに存在に気付かれずに近づき、自然な行動を撮影することです。そのためにはおかしな格好(全身を草や葉にカモフラージュした格好)もするし、ウェットスーツで南極の海に潜るのです」と過酷な環境下での撮影について語っています。
このほか、地球上で最も荒れる海としても知られるドレイク海峡、サウスジョージア島でかつて行われた捕鯨について、そして南極での観測で400頭にまで減ったクジラが今では300万頭以上まで復活を遂げ「come back」したことについて話しました。
“So if you protect wildlife, if you give it the chance, it will come back. You do just need to give it the chance.”
「(意訳)野生動物を保護し、チャンスを与えるだけで、彼らは再び蘇ることができます。彼らに復活するチャンスを与えることが必要なんです」。
バーティ氏は大自然の驚異をフィルムに収めるとともに、一時期は絶滅の危機に瀕した野生動物が「come back」つまり「蘇り、また私たちの目の前に姿を現してくれる奇跡」について希望に満ちた視点で捉えていることが印象的なトークセッションとなりました。
また「このように野生動物の『come back』を確実にするために、私たちができる限りの行動をすることが大切です」とイベントの参加者にも呼びかけました。
トークセッションには、バーティ氏に憧れてナショナル ジオグラフィックのエクスプローラーになりたい人や、地球環境と野生動物の保護に関心がある人が集まり、最後の質問コーナーでも多くの質問が寄せられました。
参加者「今までの撮影で一番危なかったなと思ったエピソードはありますか?」
バーティ氏「面白いことによく聞かれるんです。何が一番危険なのかって、実は人間が最も危険な存在なんです。動物たちが人間を襲う理由の多くは、彼らを脅かしたから。あるいは人間が何か悪いことをしたからなんです。だからこそ私たちは動物の専門家を伴って、撮影の際には正しい行動――動物が脅かされたと感じさせない状況で行います」
参加者「水の中にいる(長時間、長期に渡る水中での撮影を行う)のはどんな気持ちですか?」
バーティ氏「シャワーやプールに長く入って指がシワシワになった経験はありますね?それと同じ感じが一カ月間続くようなものなんです。でも面白いのは、人間の体はとても適応力があること。南極では水温がマイナス1度ととても冷たいけれど、最初に入る時はとても寒くても、体は適応してきます。また、撮影前には冷水で訓練することもあるんです」
参加者「海のゴミ問題についてはどう思いますか?」
バーティ氏「荒々しい海や美しい場所でも、海洋プラスチックを見かけることはあります。特にクジラのように大きな口を持つ動物にとっては、食物連鎖にも影響し、大きな問題です。私たちはいち消費者として、ワンウェイプラスチックを最小限に抑え、できるだけリサイクルすることを考える必要があります。私たちがみんなで少しずつ協力すれば、変化をもたらすことができるはずです」
参加者「多くの野生のイルカが漁によって犠牲となっていますが、野生のイルカを助けるためにはどのような方法があるのでしょうか?」
バーティ氏「イルカが犠牲になることはとても悲しいことです。また一方で、イルカ漁以外の漁業において他の魚とともに多くのイルカやクジラが混獲されているのが現状です。私たち消費者は、魚介類を食べる時にその魚がどこから来たのかを考え、漁獲が持続可能で倫理的な方法で行われているか、混獲が抑えられているかを確認することが大切です」
みんなの行動が解決へ向かう――
バーティ氏パネルディスカッション
イベント最後のパネルディスカッションでは、バーティ氏と、モデル・ラジオナビゲーターの甲斐 まりかさん、ポートレートカメラマンの横山 泰介さんとのトークが行われました。トークは海洋生態系をテーマに進められ、海の現状と未来について意見交換を行っています。
バーティ氏「私たち3人が共通するのは、情熱、そして海への愛ですね。甲斐さん、海の中のお気に入りの場所について教えて頂けますか?」
甲斐さん「先日、宮古島に行ってきました。羽田から3時間で本当に綺麗な海があって、生態系もすごいです。これほど透き通っている水に3時間で出会えるのは驚きです」
甲斐さん「新城海岸ではウミガメに会える確率が高く、感動しましたね」
バーティ氏「横山さんのお気に入りの場所はありますか?」
横山さん「僕は生まれ育ったのが鎌倉なんです。ビーチも海もあって。育った場所、地元が好きですね」
バーティ氏「素晴らしい景観のある場所に住むことは、特別ですね。横山さんが海とつながっていることはありますか?」
横山さん「サーフィン雑誌の仕事が多いので、サーファーの写真を撮ることが非常に多いです。皆さんストレスが溜まっても、サーフィンすると、そのストレスが抜けるんですよね。そのときの優しい顔。それをずっと撮っていたらいつの間にか30年経っちゃったんです」
バーティ氏「私もサーフィンが好きです。甲斐さんもダイビングをされていましたが、海とつながりたいならマリンスポーツに取り組むのは素晴らしい方法です」
甲斐さん「バーティさんは色んな所に行っていると思いますが、一番好きな場所は?」
バーティ氏「とても難しい質問ですが、答えるならカナダのブリティッシュコロンビア州に位置するバンクーバーアイランドです。この場所が特別なのは、野生の大地、寒冷性熱帯雨林が野生の海と出会う地球上で数少ない場所の1つであることです。ここには大型で素晴らしい生物がたくさんいます」
バーティ氏「甲斐さんは世界各地を旅行されていますが、日本以外で特に魅力を感じる場所はありますか?」
甲斐さん「オーストラリアが好きで、南のモーニントン半島はダイビングスポットがあり、野生の動物がたくさんいます。この半島の向かいにあるフィリップ島では、野生のペンギンも見ることができます」
甲斐さん「フィリップ島には多くのペンギンの棲み家があったんですが、土地開発などで減ってしまい。ペンギンの保護施設・研究センターが80年代にできました。リトルペンギンという種類ですが、野生のペンギンが毎日海に向かい、餌を採る姿を見ることができます」
甲斐さん「80年代で1万2000匹だったペンギンが20年間で3倍になったという話を聞き、失われた生態系が復活したのを間近で見ました。バーティさんの番組でも見ましたが、保護したり、研究するのは本当に大切なんだなと改めて感じました」
バーティ氏「これは重要なことで、強調したいと思います。ペンギンが3倍になっている。素晴らしいことです。なぜなら世界中のペンギン、様々な種類のペンギンのほとんどが減少しているからです。だからフィリップ島で個体数が実際に増えているのは、保護成功の物語であり、感嘆すべきことです」
バーティ氏「トークセッションで、デイビッド・アッテンボロー氏についてお話ししました。彼は私のヒーローです。横山さんは情熱を持っている特別な人物について知っていますか?」
横山さん「この写真。1976年に人類で初めて素潜りで100mを達成した記録保持者『ジャック・マイヨール』氏なんです。色んな雑誌の取材に同行しましたが、自然と寄り添いながら、自然と共存していくことの大切さが感じられました。いま持続可能な社会とよく言われていますが、いま思うと、彼はそういう意味合いのことを言っていたのかなと思います」
バーティ氏「ジャック・マイヨール氏の自然との調和は時代を先取っていますね。日本では、人々の環境への配慮や意識に変化は感じられていますか?」
横山さん「そうですね、70年代は平気でビーチにゴミが捨てられていたかと思います。いま考えると恥ずかしいことですが、僕自身もあります。でも今では改善してきたと思うんです。多くの方たちが行動したからだと思います。昔から考えるとずいぶん環境が良くなってる。しかしバーティさんのお話にもあったように、南極でもプラスチックが見られる。でもこういう時代ですから、一人ひとりが意識を持っていれば、変わっていくだろうと思います」
バーティさん「甲斐さん、いまのお話をどのように感じますか?また世界を旅する中で、どのような発見がありましたか?」
甲斐さん「色んな国に行くと、その国ごとの意識の違いというのはあると思います。映画『ザ・ビーチ』の舞台になったタイのビーチは、オーバーツーリズムの影響でゴミ問題やサンゴ礁の破壊などたくさんの問題がありました。そこでタイ政府がサンゴ礁や海の生態系を戻すために、2018年にビーチを閉鎖しました。いままた観光客を受け入れていますが、オフシーズンの時は閉鎖するなど、人の力でコントロールすることもできるんです。」
甲斐さん「一方で宮古島でウミガメと出会った海岸でも漂流しているゴミがたくさんあり、ペットボトルを見ると違う国の言葉なんです。その国が海のために法律を作っても、海はつながっているので、周りの国と強力したり、世界中でひとつの問題として解決しないと、進まないのかな、と思いました」
バーティ氏「力強い言葉ですね。みんなの行動が解決策の一部になります。私たち3人が言えるのは、海を守るための最善の方法は、自分たちで経験することです。しかし、そこには大きな責任が伴います。海や、野生生物がいる場所に入るときはよく考える必要があります。だれと行き、何をするのか。海との関わり方は、環境を破壊することなく、持続可能なものなのか、と」
以上のように海を守ること、そのためにどう行動し、何を考えれば良いのか3人のパネルディスカッションで深掘りされました。
キャンドルに願いを――
CANDLE JUNEさんのキャンドルアート
イベントシンボルには横浜の港を背景にCANDLE JUNEさんが手掛けた壮大な生き物をイメージした作品を展示。
夜にはキャンドルナイトが行われ、幻想的なキャンドルアートが来場者の注目を集めました。
キャンドル・ジュンさんが自らキャンドルを配置し、来場者一人ひとりに「願いごと」を聞きキャンドルへの点火が行われ、アースデイの締めくくりに相応しい、地球へ思いを馳せる夜となりました。
―― 書籍/活動紹介 ――
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